

「ポーズ! ポーズ! ぐるぐる……、パー!」

夏休み真っ盛りの2025年8月9日。東京都目黒区にあるダンススクールで、21人の子どもたちがダンスレッスンを受けていた。4〜13歳と年齢はさまざま。慣れないダンスに戸惑う様子を時に見せながらも、全身を目いっぱい動かして汗を流した。
レッスンに協力したのは人気グループ「EXILE」などを抱える芸能事務所LDH JAPAN(東京・目黒)だ。最後には同事務所のアーティストも交えて名曲「Choo Choo TRAIN」を披露した。参加した子どもの母親からは「将来の夢のきっかけにつながる」との感想が聞かれた。

このイベントを企画した団体「WeSupport(ウィーサポート)」は、21年からひとり親世帯など困窮家庭を支援している。企業から寄付された食品を提供したり、ダンスレッスンのような子どもの「体験」に焦点を当てたイベントを開催したりしている。収穫体験やウインナー作りなど、五感を使うさまざまな体験の機会をつくっている。25年6月末時点の支援世帯数は約3万世帯、寄付物資の総額は17億円に達した。
ローソン、日清製粉グループ、森永製菓……。およそ80社の支援企業の中心でWeSupportを取りまとめているのが、事務局を務めるオイシックス・ラ・大地。同社はなぜ、ひとり親への支援に取り組むのか。
「海外で顕在化している社会の分断は、間違いなく日本にも起きてくると思っている」。同社の高島宏平社長はこう危惧する。オイシックスは宅配調理キットなどの販売を手掛けており、消費者の安定した生活が事業の基盤だ。「分断した社会で事業がやりやすいということはまずない」。高島氏らは経済同友会でも「共助資本主義」の実現に向け、若者の貧困対策などに取り組んでいる。
非正規雇用の拡大に伴って日本の経済格差は広がってきた。所得が中央値の半分未満に位置する人の割合を指す相対的貧困率は、主要7カ国(G7)の中で米国の次に高い。所得の格差は教育格差にもつながる。下のグラフにあるように、世帯年収によってスポーツや文化などの体験の豊かさや、大学進学率は顕著に差がついている。


競争を原理とする資本主義社会で、成長には高いリターンというインセンティブも不可欠だ。ただ所得の格差が広がり、それが次世代へ連鎖すれば機会の平等は担保されず、社会の活力をそぐ。生活の不安定な状態が続けば将来不安は増し、消費の停滞、さらには少子化や人口減少をも加速させる。
グローバリゼーションの恩恵を受けた人が豊かになり、そうでない人は中間層から転がり落ちる──。こんな社会の分断への不満は、日本でもあらわになってきた。25年7月の参議院議員選挙で、参政党が「日本人ファースト」を掲げ躍進したことはその象徴と言える。排外的な米トランプ政権の返り咲きや、欧州の極右政党の台頭に通じるものがある。
格差拡大、企業にも責任
富の再分配は政府の大切な仕事だ。ただ財務省の法人企業統計によると、24年度の日本企業の純利益の合計は約90兆円(金融・保険業除く)。日本政府の社会保障給付費が140.7兆円、うち年金と医療を除く「福祉その他」が34.9兆円(いずれも25年度予算ベース)であるのに照らせば、「分配の原資」としては見過ごせない規模だ。
同じ統計によると、14年度に約354兆円だった日本企業の内部留保(利益剰余金、金融・保険業除く)は24年度に約638兆円まで増えた。一方、人件費の伸びは約196兆円から約229兆円と見劣りする。企業のため込む姿勢が格差拡大につながったというそしりは免れ得ない。そうした方向付けをしてきたのは個々の経営者の判断だ。
(日経ビジネス 松本萌)
[日経ビジネス電子版 2025年9月19日の記事を再構成]
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