
資生堂は21日、敏感肌向けスキンケアブランド「dプログラム」を刷新し、価格を1割超引き下げると発表した。原材料費や人件費の高騰による値上げが相次ぐ中、敏感肌ケア市場で先行する花王「キュレル」の価格に近づけ巻き返しを狙う。dプログラムに限った値下げだが、高価格帯重視の同社にとって異例の戦略転換となる。
ビジネスTODAY ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。過去の記事や「フォロー」はこちら。「最も信頼される敏感肌のスキンケアブランドになりたい」。ブランドマネージャーの家谷直嗣氏は同日の日本経済新聞の取材に対し、敏感肌ケアでの日本市場のテコ入れに向け意欲を語った。
dプログラムは資生堂が敏感肌の皮膚科学研究に基づき1997年に立ち上げた。肌のバリア機能に着目し、低刺激と高い保湿力を両立。肌悩みに対応した化粧水や乳液をそろえ、日本とアジアで展開。3000〜4000円台と中価格帯に位置する。
5→3種類に集約
今回の刷新では日本で化粧水と乳液のシリーズ構成を見直す。従来は「毛穴」「ニキビ」「乾燥」「ハリ・たるみ」「シミ」の5つの悩みに応じた商品構成だったが、これを「毛穴・ニキビ」「乾燥・肌荒れ」「シワ・ハリ・シミ」の3つに集約する。
容量は据え置きつつも価格は従来より400〜600円下げ、1割超安い水準に改める。新しい化粧水と乳液全15品を10月21日に発売し、ドラッグストアや総合スーパー、化粧品専門店、電子商取引(EC)サイトなどを通じて幅広く展開する。

こうした戦略見直しの背景にあるのが、国内シェアで先行する花王のキュレルの存在だ。英調査会社のユーロモニターによると、2024年の皮膚科学に基づく敏感肌ケア商品などの国内市場ではキュレルが36.8%で断トツの首位。米ケンビューのドクターシーラボ(14.7%)が続き、dプログラム(12.6%)は3番手にとどまる。
キュレルは花王独自の保湿成分「セラミド機能成分」を主成分とし、肌のバリア機能を補うのが特長だ。価格帯は2000円台で12の国・地域で展開している。

これに対しdプログラムでは、敏感肌の角層バリアを整える独自アプローチを訴える。敏感肌ケアではセラミドなどで外側から補う方法が主流だが、同社は虫歯予防で知られる天然成分キシリトールを採用。潤いを保つ脂質の働きを促し、バリア機能の向上を目指す。性能試験では回復速度の向上が確認されたという。
敏感肌を持つ人はバリア機能が弱く、複数の肌の悩みを抱えやすい。これに対応するために従来のdプログラムでは5種類を展開していたが、「どれを選べば良いかわからない」といった声が多く寄せられていた。さらに、同社の調査で価格を理由に購入をやめる利用者が競合商品に比べて2倍に上ったという。
資生堂の家谷氏は「敏感肌のために商品の中身も価格もシリーズ(商品構成)も最善を尽くした。男性も含めて幅広い客に使ってほしい」と話す。売り場も刷新し、商品の厳選成分や敏感肌の角層バリアを整えるサイエンスといった強みを強調して、客が選びやすいように工夫する。

国内事業立て直し
資生堂が主力ブランドの値下げに踏み切るのは異例だ。「クレ・ド・ポー ボーテ」や「SHISEIDO」といった高価格帯ブランドに注力し、研究開発力を強みに高付加価値路線を推し進めている。 今回の値下げは顧客の定着を図るとともに、従来の若年層に加えて35歳以上へと対象を広げ、より幅広い層の取り込みを狙う。
日本市場は新型コロナウイルス禍でインバウンド(訪日外国人)客の需要が細り、売上高は回復途上にある。24年12月期の日本事業の連結売上高(国際会計基準)は前年比9%増の2837億円と持ち直してきたが、日用品事業の売却なども影響し、19年比では約3割減とコロナ禍前の水準には届いていない。

業績全体でも厳しい局面が続く。24年12月期の連結最終損益は108億円の赤字(前の期は217億円の黒字)に転落した。24年には中国では不採算店舗を削減し、日本では美容部員など約1500人の早期退職を実施。25年には買収ブランドの不振を背景に米国でも約300人の削減に踏み切るなど構造改革を進めている。
24年11月には回復に向けたアクションプランを公表した。クレ・ド・ポー ボーテ、SHISEIDOなど8つを世界的な重点ブランドに選定。国内ではこれらに加えてdプログラムも注力ブランドに位置づけた。dプログラムの25年上半期の売り上げの伸びは前年同期比で1桁台にとどまっている。
JPモルガン証券の桑原明貴子シニアアナリストは「マザーマーケットの日本で安定した顧客基盤を持つことは重要だ。ただ、市場の動きを追うだけでなく、強みの研究開発力を生かして伸びる市場を自力で開拓してほしい」と指摘する。
敏感肌ブランドの刷新は、顧客層の立て直しとシェア拡大を狙った最後の一手だ。強豪ブランドへの回帰に向け猶予はない。
(西山良太、徐潮)
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