神津島村での繁殖を目指すコチョウザメ=フジキン提供
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 キャビアが東京の新たな特産品になるかもしれない――。東京都は神津島村とチョウザメの養殖を進める連携協定を9月に結んだ。早ければ来年度から育て始め、4、5年後の商品化を目指す。村では主要水産物の一つだったイセエビの漁獲量が気候変動などの影響で激減。使われなくなったイセエビの飼育施設を活用し、チョウザメの養殖とその卵の加工に新たな活路を見いだしたい考えだ。

 黒潮や海底の地形といった条件で好漁場とされている伊豆諸島にある同村では、従来、イセエビやキンメダイを中心とする漁業が盛ん。だが都水産課によると、近年の海水温上昇や海流の変化などの気候変動でイセエビが激減し、漁業者の収入が減ったり不安定になったりしてきた。また資源の持続可能性の観点から、キンメダイから他の水産物へのシフトも課題だった。

 村にはイセエビを水揚げ後にエサを与えて大きくする蓄養のための屋根付き水槽を備えた施設があるが、水揚げ量の減少に伴い近年はほとんど使われなくなっていた。そこで、都と村が施設の有効活用を検討。気候変動の影響があまりなく、豊富な湧き水が出るなどの好条件が村内でそろうチョウザメに着目した。

以前はイセエビの蓄養に使われていた神津島の施設。今後、コチョウザメの養殖用に改修する=東京都提供
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 養殖するのはチョウザメの仲間では最小で、成長しても体長40センチ程度、最大1メートルほどと扱いやすいコチョウザメ。黒海やカスピ海、シベリアのオビ川などに生息している。卵は小粒だが塩漬けすると世界三大珍味の一つとされるキャビアになる。肉も食用になるという。国内の養殖業者などで構成する「日本チョウザメ振興会」事務局の石田純也さんによると、国内では1980年代ごろから養殖が始まり、町おこしの一環で育てている地域もあるという。

 育て始めてから採卵までには4、5年かかるが、気候変動に左右されず、安定した収入につながる可能性がある。村の担当者によると、漁師らもイセエビ漁に代わる試みとして、前向きに取り組もうとしているという。

 都は2025年度予算に2000万円を計上。茨城県で養殖している業者「フジキン」への事前調査や施設の改修費用に充てている。来年度には改修工事を終え、養殖を始める予定。将来的にはキャビアに加えて肉を使った商品開発も検討している。

 都は、村での成功後に繁殖のノウハウを多摩地域に転用することも検討している。都水産課の担当者は「神津島の漁業者の安定した収入を確保し、いずれは東京各地に広げ、ブランド化できれば」と狙いを話す。【柳澤一男】

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