
業界団体の日本建設業連合会(日建連、東京・中央)が30日発表した2025年4〜9月の国内建設受注額は前年同期比19.5%増の9兆4152億円だった。このうち民間の製造業分は4.6%減と2年ぶりに下落した。企業の設備投資意欲は強い一方、コスト増や人手不足から受発注額が折り合わない。武田薬品工業などは建設計画の見直しに動く。
ビジネスTODAY ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。過去の記事や「フォロー」はこちら。加盟92社の受注額を集計した。受注額全体は社数の変動があり単純比較はできないものの、同期間としては直近20年で最高となった。30日に記者会見した日建連の担当者は「ホテルやオフィス、商業施設などの大型の民間投資が押し上げている」と話す。
民間からの受注額は31.1%増の7兆7237億円と前年実績を大幅に上回った。内訳をみるとホテルなどの非製造業が42.6%増の6兆3503億円と大半を占める。
一方、製造業は4.6%減の1兆3733億円と落ち込んだ。日建連は「ゼネコンは人手不足に直面する。利益率が低くても、とにかく受注を取るという従来の姿勢から脱し、現在は適正な利益を確保できる案件を選んでいる」とみる。

製造業の投資意欲自体は旺盛だ。日本経済新聞社がまとめた設備投資動向調査では25年度の製造業の国内計画額(284社分)は前年度実績比16.3%増の4兆4124億円だった。高度経済成長期に建設された工場の老朽化に伴う更新需要も高い。
それでも受注が伸びない要因の一つが、建設コストの上昇だ。建設物価調査会(東京・中央)によると9月の東京地区の建築費指数(速報値、2015年=100)は工場(鉄骨造)が137.2と、前年同月に比べて2%上昇した。
設備工事の人手不足が拍車をかける。超高層ビルやマンション、商業施設といった大型施設に多くの人手が割かれ「大規模な工事では報酬を増やして設備工事の技能者を他県から確保するほどだ」(大手ゼネコン幹部)。この結果、見積額が想定よりも上振れしやすくなっている。

首都圏を中心に計画が相次ぐ超高層の複合ビルは1件当たりの売り上げ規模が大きい。建設側でも「定期的に受注しなければ経営にとって打撃となりかねない」(別のゼネコン幹部)ため、優先的に人を割り振っているようだ。
工場でも、半導体製造受託最大手の台湾積体電路製造(TSMC)のように潤沢な資金や国の補助金が計画を後押しする場合は、コストの上振れよりも早期稼働が優先される傾向がある。10月16日には熊本県菊陽町で計画している第2工場で建設工事を始めたと明らかにした。
一般的な工場や研究施設の場合、建設費の上昇は業績悪化に直結する。このため、企業と建設業者で受発注額が折り合わず、建設断念や延期といった計画を見直すケースが出てきた。
武田薬品工業は9月末、大阪工場(大阪市)内に血液製剤の生産設備を建設する計画を見直すと発表した。25年度中に着工する予定だったが、26年度以降にずれ込んだ。
工場を新設せずに既存施設の改修や取得に踏み切る企業もある。極洋は24年度に鳥取県内で農産加工品の工場を取得し、冷凍食品工場に転換して稼働にこぎ着けた。投資額は14億円で「新設するよりコストを抑えられた」(同社)という。
積水化学工業は31日にシャープの堺工場(堺市)の一部を取得し、次世代の太陽電池「ペロブスカイト型」の量産工場を27年度までに稼働させる。「更地を取得して工場を建てるより量産開始までの期間を2〜3年短縮できる」(同社)という。
不動産サービス大手のCBRE(東京・千代田)によると、グループで手がける工場整備の案件のうち、改修や賃貸入居が占める比率が25年(10月時点)で約6割と、23年(約4割)から高まった。「用地取得に加え、データセンターの増加で電力調達も難しく、既存物件の転用が選ばれやすい」(担当者)という。

国土交通省によると、工場における改修や修理などの工事の受注高(24年度)は2兆475億円と新型コロナウイルス禍前の19年度比で8%増えた。メーカーの受難は当面続きそうだ。
(橋本剛志、黒沢亜美)
ゼネコン大手、改修協力で顧客つなぎとめ
ゼネコン大手は新規の建設に人手を割きにくいなか、改修関連の技術提案に力を入れている。足元は受注額で折り合えないものの、工場新設も重要な案件に変わりはない。建設需要が一服するのを見据え、既存顧客をつなぎとめる。
鹿島や竹中工務店は既存の倉庫などをクリーンルームに改修する工事を提案している。竹中工務店によると、倉庫内に細胞培養の施設を構築した場合、新築よりコストや工期を2、3割抑えられるという。
清水建設は米国で土壌中の有機フッ素化合物(PFAS)を99%除去する技術を確立し、国内で売り込む。日本では工場建物を取得する際にPFASの検査は義務付けられていないが、海外での規制の高まりを受けて需要拡大に備える。大林組もPFASを含む土壌に活性炭などを混ぜ、地下水に溶け出さないようにする技術を開発している。
このほか、大成建設は大日本塗料と組み、工場の外壁に塗ることで断熱性能を高める塗料を開発した。設備を更新しなくても空調効率を高め、電力消費を抑えられる点を売り込む。
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