
【ニューヨーク=竹内弘文】米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は11日、米議決権行使助言大手や株価指数連動型ファンドによる上場企業への影響力を制限する施策を米政府が検討していると報じた。
WSJによると、株主総会議案の賛否推奨を禁じる大統領令などが出される可能性があるという。米独禁当局が調査に乗り出していることも明らかになった。
議決権助言の市場は米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)と米グラスルイスの2社が事実上二分しており、両社はコーポレートガバナンス(企業統治)の観点から議案を吟味し、顧客である機関投資家向けに賛成・推奨を勧めている。間接的に上場企業の経営に対する影響力が強まっている。
直近では米電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)への1兆ドル(約154兆円)の巨額報酬案に対し、ISSとグラスルイスの両社は反対を推奨した。6日の総会では株主の賛成多数で可決されたが、総会に先立ちマスク氏が助言会社を「企業テロリスト」呼ばわりするなど、対立が先鋭化していた。
米国の保守層は助言会社がESG(環境・社会・企業統治)の観点から上場企業の提案に反対推奨するのは「経営への不当な介入」にあたるとして批判してきた。助言会社が投資家向けに賛否推奨をする一方、グループ会社で上場企業向けに企業統治のコンサルティング業務をするのは利益相反ではないか、という不満も経済界で根強い。
WSJは12日の続報で、米連邦取引委員会(FTC)が反トラスト法(独占禁止法)違反の可能性があるとしてISSとグラスルイスに対する調査に着手したとも伝えた。競争阻害につながる行為に関与した可能性について調べる内容の書簡を9月に両社に送付したという。
日本経済新聞の問い合わせに対し、ISSは書簡を受け取ったかどうかも含めてコメントを拒否した。グラスルイスは問い合わせに回答していない。
ESGに関する米政府の攻撃は運用会社にも及びそうだ。WSJの報道によると、指数連動型ファンドの運用会社に対し、ファンドに出資する投資家の意見を反映した議決権行使の義務付けといった措置が検討されているという。
指数連動型ファンドは低コストを売り物に個人や機関投資家のマネーを集めてきた。主要な指数連動型ファンドを運用する米大手運用会社のブラックロックやバンガード、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントは米上場企業の大株主となっており、各運用会社の議決権行使は上場企業の経営戦略にも影響していた。
助言会社も指数連動型ファンド運用会社も、政治的な批判にさらされる中、事業モデル変更を進めている。グラスルイスは当社独自の見解に基づく賛否推奨を2027年から取りやめる。ブラックロックはファンド投資家が議決権行使の意思決定に参加できるサービスを提供している。
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