今年で創業173年を迎えた山形県鶴岡市中心部の小売業「南銀座 池田」が11月末で閉店する。7代目社長の池田督(ただし)さん(65)は「連日のように惜しむ声や手紙を寄せていただき、従業員と感謝でいっぱい」と目を潤ませる。
3階建ての店内は、昭和の雰囲気が漂う小さなデパートのようだ。着物から洋服、学生服、ベビー用品、カーテンや椅子といった家具まで幅広く取り扱う。閉店セール前に閉業したが、2階にはカレーライスやカツ丼などを提供する食堂もあった。
1852(嘉永5)年に古着屋として創業し、明治時代に反物を売るようになった。1960~70年代、主力の着物や布団、家具などの嫁入り道具一式がよく売れた。自前の布団工場を建設し、ピーク時の従業員は現在の2倍超の約50人いた。
池田さんの記憶の中で、祖父は雪道で馬車を走らせて販売に奔走し、父はセール時に赤いたすきを掛けて接客に励んだ。母は「商売人は5分で食事をとれ」が口癖だった。
池田さんは大学を卒業し、有名デパートで10年ほど経験を積んだ。その後、帰郷して店で働くようになった。店内は時代とともに客のニーズに応じ姿を変えていった。
着物離れや冠婚葬祭の簡素化が急激に加速し、10年ほど前から売り上げが伸び悩んだ。親身な接客が売りのベテラン従業員も高齢化したことから、立ちゆかなくなる前に幕を引くことを決めた。
「最後も笑顔で」と閉店セール中の売り場に立つ池田さん。今後は地元の街づくりに関わりたいという。「人のつながりや食や自然が豊かな鶴岡が好き。消滅都市にはしたくない」と話す。【長南里香】
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