厚生労働省が定める11月の「過労死等防止啓発月間」の関連シンポジウムが11日、奈良市内であった。広告大手電通の元新入社員で、長時間労働やパワーハラスメントにより2015年に過労自殺した高橋まつりさん(当時24歳)の母幸美さんが講演。「娘はもう帰って来ない。悔しく悲しい。働く人は手遅れになる前に逃げて」と涙ながらに訴えた。
「娘の死は仕事が原因です」
幸美さんは冒頭、強い口調で切り出した。
まつりさんは15年に東京大学を卒業し、電通に入社。当初は、残業が増えつつある中でも「アイデアを褒められたから頑張る」など前向きに話していたという。
だが、休日にも出勤を強いられるなど過酷な勤務が続いた。「うわさに聞いた47時帰宅」「今週は10時間しか寝ていない」などと幸美さんに打ち明けるようになり、「本気で死んでしまいたい」など死に触れるメッセージも増えていった。
幸美さんはもともと、まつりさんの電通入社を歓迎していなかった。インターネットの「激務で有名な会社」という書き込みを見たからだ。幸美さんは「あの会社に入っていなかったら、と思うと悔やみきれない。過労死は環境次第で誰にでも起こる」と強調した。
大好きで大切なお母さん、さようなら。ありがとうね。仕事も人生もすべてがつらいです。さようなら。お母さん、自分をせめないでね。最高のお母さんだから。
まつりさんは15年12月25日、幸美さんに最後のメッセージを送った。その後、都内の寮から飛び降り、自ら命を絶った。年末には一緒に旅行する予定だった。「娘のように苦しむ社員が二度と出ないでほしい。娘を返してほしいというのが私の一番の願いです」
今も過重労働がなくならない社会について「気づかないうちに正常な判断ができなくなり、多くの若者が過労死している」と指摘。「会社にはさまざまな事情があるかもしれないが、一番大切なのは人の命。事業主や管理職の皆さん、生き生きと働ける職場をつくってください」と締めくくった。
146事業場に是正指導
厚労省は今月、全国で過労死をなくすキャンペーンを展開。奈良労働局も事業所に対する協力要請やセミナーなどを実施している。
県内の奈良、葛城、桜井、大淀の各労働基準監督署は24年度、長時間労働が疑われる計300事業所に監督指導を実施。うち、約半数の146事業所で違法性を確認し、是正や改善に向けて指導した。58事業所で1カ月当たり80時間を超える時間外・休日労働が確認され、39事業所で賃金不払い残業があった。
過重労働による健康障害防止措置が不十分として、改善を指導したのは126事業所。労働時間の把握不適切で指導したのは32事業所だった。奈良労働局は「今後も長時間労働の是正に向け、積極的に取り組んでいく」としている。【山口起儀】
相談窓口
・#いのちSOS
「生きることに疲れた」などの思いを専門の相談員が受け止め、一緒に支援策を考えます。
0120・061・338=フリーダイヤル。月・木、金曜は24時間。火・水・土・日曜は午前6時~翌午前0時
・いのちの電話
さまざまな困難に直面し、自殺を考えている人のための相談窓口です。研修を受けたボランティアが対応します。
0570・783・556=ナビダイヤル。午前10時~午後10時。
0120・783・556=フリーダイヤル。午後4時~同9時。毎月10日は午前8時~11日午前8時、IP電話は03-6634-7830(有料)まで。
・まもろうよ こころ(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/sns/)
さまざまな悩みについて、LINEやチャットで相談を受けている団体を紹介する厚生労働省のサイトです。年齢や性別を問わず、自分に合った団体を探せます。
・こころの悩みSOS(https://mainichi.jp/shakai/sos/)
悩みを抱えた当事者や支援者への情報のほか、相談機関を紹介した毎日新聞の特設ページです。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。