
電気自動車(EV)の海上輸送の増加に伴い、船舶の火災リスクが高まっている。狭い空間で車載電池が発火すれば、延焼しやすく消火が難しいためだ。一隻の損害は単純計算で350億円に上り、既に火災による沈没事故が起きた。日本の海運大手は自動車船における世界シェアが高く、川崎汽船は21日に消防当局と初の合同訓練を実施した。
合同訓練は同日午後、横浜港の大黒ふ頭にある自動車船ターミナルで行った。横浜市消防局の消防士約60人や船員らが参加し、はしご車やヘリコプター、消防船が出動した。
停泊している自動車船の最上階部分において、停車した自動車が発火したと想定した。船員は消防当局などに通報し避難。消防士がホースを持って船内に入って消火作業を行ったほか、消防船も外から自動車船に放水した。訓練は1時間半ほどで終わった。
停泊した大型船と陸上の消防隊らが連携する「船陸合同」の訓練は国内初だという。背景にあるのは、EVを積載した自動車船で火災事故が起きた場合、被害が深刻になりかねないことだ。
中国発のEV輸出が自動車の海上輸送をけん引する。中国の2024年の自動車輸出台数は前年比19%増の585万台だった。このうちEVの比重は高く、今後はさらに増える見通しだ。
EVに搭載する蓄電池は車の底にあり、発火するとガソリン車以上に消火が難しいという。燃焼しながら酸素を発生させることもあり、空気の遮断だけでは消えにくい。
自動車船の構造が消火活動をさらに難しくする。船内は立体駐車場のように多層構造になっている。車ごとの間隔も数十センチと、人が通り抜けられないほどの隙間しかない。船の外からは内部が見えず火元を特定しにくい面もある。

世界では自動車船の火災が相次ぐ。6月には米アラスカ州沖で中国からメキシコに向かっていた自動車船が燃え、発火から20日後に沈没した。商船三井も22年にポルトガル沖で起きた自動車船の火災で、原因がドイツ高級車ポルシェのEVの電池にあるとして損害賠償訴訟を起こした。
自動車を満載した自動車船が沈没した場合、船の価格と自動車の末端価格を台数で乗じた単純計算で損害は350億円になる。燃料の流出による環境への影響も甚大だ。日本の大手海運3社は自動車船(船隊規模)の世界シェアで4割弱あり、対策が急務となっている。

船舶保険会社の業界団体、ノルディック海上保険協会(Cefor)によると、25年の上半期で最も損害が大きかった船舶被害のうち上位4件はいずれも火災だった。損害の報告件数に占める火災の割合は全体の4%だが、損害金額は全体の19%で火災のリスクは大きい。
船舶保険を扱う損保業界も火災の増加を警戒する。損害保険ジャパン海上航空保険業務部の上村一郎氏は「特にEVを載せた自動車運搬船からの火災は船舶保険会社も懸念している」と話す。「船舶火災はひとたび起こると全損リスクが大変高い。船が大型化していてリスクはさらに高まっている」とみる。
船舶の安全審査などを担う日本海事協会(東京・千代田)はEVの火災対策における指針を示す。船内のEV火災は発火前の異常を検知することが重要だとして、通常の消火設備に加えてガス検知器を設けるほか、EV電池の充電率を5割未満にすることも求めている。
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