
中部電力の浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の安全対策工事で契約変更や精算手続きを適切に行っていなかった事案が判明した。原発の再稼働に向けた「新規制基準」への対応などで社内での基本手続きが徹底していなかったことが明らかになった。南海トラフ地震への備えという高い安全要件に加え、新規制基準が負担となり、再稼働に向けたハードルの高さが改めて示された。
中部電が保有する唯一の原発である浜岡原発は、2011年の東日本大震災後に経済産業省の要請を受けて運転を取りやめた。中部電力は停止の条件として「津波に対する防護策などを完了し原子力の安全を確認したときは運転が再開できると確認したい」と求め、11年から自主的に対策工事を進めていた。
自主工事後、新規制基準対応で仕切り直し
翌12年、原子力規制委員会が発足し従来の安全基準が見直された。原発を再稼働するには新規制基準への適合審査が必須となり、中部電力はすでに始めていた工事の仕様変更に追われた。
原発の再稼働の是非を判断する新規制基準は、想定される最大の津波高に対応できる防潮堤や、テロ対策設備の設置などを求めている。福島第1原発事故を受け、自然災害などへの追加対策が必要になった。
浜岡原発は太平洋に面し、全国の原発の中でも特に南海トラフ地震に直面するリスクがある。そのため新規制基準への適合には他の原発よりも高い壁がそびえる。

今回の不祥事である精算金の未払い事案も、基準を満たすための契約変更にかかるものだった。工事が長期化するなか「追加予算を上げることについて取締役会の承認が得られないだろうと判断した」(佐々木敏春副社長)。
浜岡原発は24年12月から原子力規制委員会が3、4号機の再稼働に必要なプラント審査を始めたばかりだ。南海トラフ地震を想定した津波による浸水を防ぐための防潮堤のかさ上げ工事という最大の関門も残っている。
防潮堤は津波の高さの予想をより厳しく設定したことにより、現状の22メートルから6メートルかさ上げし、28メートルとする方針だ。15年にも4メートルかさ上げした経緯があるが、その部分を一度取り壊し、新たに10メートル分を既存の防潮堤の上につくる。
浜岡原発の安全対策費用、4000億円を上回る公算
原発の安全対策設備は電力会社の収益にのしかかる。東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の安全対策費は19年時点で約1兆1690億円と見積もられており、従来試算から2倍近くに増えた。再稼働を目指す6、7号機ではテロ対策設備の建設が遅れており、総額は上振れする公算が大きい。
全国3地点で原発を運営する関西電力も安全対策設備に1兆円超を投じてきた。原子力規制委員会による再稼働の審査が進み、新基準が求める安全対策の詳細が明らかになるにつれて、電力各社の対応費用が膨れる傾向にある。
中部電力は浜岡原発の再稼働に向けた費用について当初は4000億円と見積もっていた。ただ24年末までにすでに2700億円支出しており、見通しを上回るのは避けられない。
原発の投資負担を抑えるため、政府は24年度から固定収入を20年間保証する「長期脱炭素電源オークション」に原発の安全対策費を加えた。東電の柏崎刈羽6号機や北海道電力の泊3号機が落札しており、収益の一部を国に返す代わりに、安全対策に関する追加投資を回収できるようになる。
安全対策の高度化が進むなかで浮上した今回の不適切事案は、再稼働に立ちはだかる課題の大きさを象徴する。新規制基準への対応と巨大地震への備えという難題に応えられる組織だと示すことができるか、中部電力の経営判断が問われている。
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