
川崎汽船が世界で唯一運航する液化二酸化炭素(LCO2)の運搬船が17日、横浜港で公開された。CO2を回収して地中に貯留する技術「CCS」は脱炭素につながるとみられており、運搬を担うLCO2船の役割は大きい。日本の海運・造船大手も新たな需要を取り込む次世代船と位置づけて開発を急ぐ一方、事業化に向けた採算面に課題を残す。
ビジネスTODAY ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。過去の記事や「フォロー」はこちら。「欧州での先駆的な取り組みを、日本のCCS開発につなげる懸け橋となる」。川崎汽船の五十嵐武宣社長は同日、海運業界や経済産業省の関係者らを前にこう述べた。
今回公開されたLCO2船「NORTHERN PHOENIX(ノーザン フェニックス)」は、中国造船大手の大連船舶海洋工程が建造した。全長130メートル、幅21メートル。貨物タンクの容量は7500立方メートルあり、約8000トンのCO2を貯蔵できる。
大型のタンカー船やコンテナ船と比べると小ぶりだ。配管が張り巡らされた船内は液化天然ガス(LNG)運搬船にも似ているが、操舵室などは通常より狭い。

この船はノルウェー沖で始まっているCCS事業に携わっている。英シェル、仏トタルエナジーズ、ノルウェーの石油大手エクイノールの3社が共同出資する合弁会社「Northern Lights(ノーザンライツ)」が全体を仕切る。
川崎汽船は今回お披露目した船を含め計3隻すべての運航や船舶管理を担う。ノーザンライツは選考過程は明らかにしなかったが、複数の海運企業が興味を示したなかで川崎汽船に運航を委託したという。
ノルウェーのCCSは商業化を目指した世界初のプロジェクトだ。デンマークとの間にあるスカゲラク海峡に面し、ノルウェー南部にある発電所とセメント工場で回収したCO2を運搬船で約700キロ先にある中間貯留施設まで運ぶ。最後はパイプラインでCO2を地中に注入する。

CCSは脱炭素化に向けた切り札として注目される。国際組織「グローバルCCSインスティテュート」によると、世界各地でCCSのプロジェクトが進んでおり、CO2の回収能力は2030年に25年比で5倍以上の年間3億3700万トンになる見通しだ。

日本でも11月に、北海道苫小牧沖で貯留を目的とした試掘作業が始まった。パイプラインを使ってCO2を輸送することを想定し、30年代初頭の事業開始を目指す。経済産業省は今後10年間に官民でCCSに4兆円以上を投じ、4000万トンを排出削減する目標を掲げる。
大規模な貯留場所として有力なのは、枯渇したガス田だ。日本周辺では東南アジアやアラスカ沖などが有力となっており、輸送に欠かせない船舶の役割は大きい。
そこで、日本の海運と造船業界も次世代船と位置づけて連携する。12月には三菱重工業や今治造船が共同出資する船舶設計会社「MILES(マイルズ、東京・港)」に川崎汽船と日本郵船、商船三井の海運大手3社が出資すると発表した。マイルズはLCO2船の開発や基本設計を手掛け、国内造船所に活用してもらう共通基盤を構築する。

課題は収益性だ。ノーザンライツの24年12月期通期決算(国際会計基準)は売上高が前の期比30%増の1億262万クローネ(約15億8000万円)、営業損失は2億8119万クローネ(約43億1500万円)の赤字だ。最初の10年間はノルウェー政府の資金援助でしのぐ計画で、企業単独での事業継続は当面難しい。
川崎汽船は現状ではLCO2船を自社保有する計画がなく、事業化に向けた戦略を練り続ける。川崎汽船の液化ガスグループCCS事業チームの三好雄大郎チーム長は「排出量の応じて支払う『炭素税』の整備などが進み、排出量に応じて金銭負担が生じるようになればCCSも広がっていく」とみる。
日本では26年4月に日本版の排出量取引制度(GX-ETS)が始まる予定だ。川崎汽船はCCS事業が広がる機会をにらみ、今回のプロジェクト参画で得た知見を生かす。
(鷲田智憲)
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