小学館が6月に発売した「ポケモン生態図鑑」(前頭5枚目)は、人気ゲーム「ポケットモンスター」の生態を解き明かした1冊だ。生き物の行動生態学を研究していた担当者が4年をかけて執筆した。ポケモンを現実の生き物のように分類した目新しさが支持され、累計発行部数は80万部を超えた。
「ポケモン生態図鑑」を企画した米原善成さん

これまでのゲームに登場したポケモンのなかから、650種類以上をピックアップした。姿やかたち、移動方法やエサの採り方など60以上の項目で分類し、まるで本物の動物図鑑のように生態を解説している。ポケモンの生態を個体ごとにまとめた本は過去にもあったが、生活様式などで分類したのは初めてだ。

都内に住む小6の女子(12)は「音を立てないとか大股といった歩き方、群れで行動するタイプのリーダーの特徴、オスとメスの違いといった他のポケモン本ではみかけない生態について書いてあるのがおもしろい」と話す。3人姉弟で取り合って読んだという。

企画と執筆を担当したのはポケモン(東京・港)に所属する米原善成さん。日本学術振興会の特別研究員などを務め、水鳥など生き物の行動生態学を研究してきた。国内やフランスで研究者になる道もあったが、ポケモンを通じて生き物に興味を持ってほしいという思いから、同社への入社を決めた。

新たに情報を創作することは避け、ゲーム内の「ポケモン図鑑」というアイテムに記載されている内容だけを使った。これまで発売された30以上のゲームから集めた生態情報は、合計7500件以上。その情報を基に専門用語を避けてわかりやすく説明し、読者が読み進めるとポケモンの「生き物らしさ」に気づける構成にした。

650種以上のポケモンを紹介している

米原さんは、「時にはゲーム機を引っ張り出して実際にプレイしてまとめました。その間にも新作のゲームが出たりして……。入社してから趣味もかねて始めたんですが、全てを集計するのに3年以上かかりましたね」と振り返る。

図鑑は、子供たちとポケモンの接点を増やすことを目的に始まった社内企画「My First Pokémonプロジェクト」から生まれた。

ポケモンのゲームは来年2月に初代作品の発売から30周年を迎える。これだけ長寿コンテンツになると、それぞれの作品のポケモン図鑑に記載されている内容に矛盾が生じることもあるのでは……? 米原さんは「一見矛盾していても、記載されていない余白の部分を考えることで、合理的に解消できるんです」と話す。

例えば、冷たいからだをもつあるポケモンは「暑い場所では生息できない」とされている一方、別の作品では「暑い地域で一家に一匹重宝されている」と記載されている。「そこで暮らす人がポケモンが快適に過ごせるようにしているとか、ポケモン自身が環境を整えているのかもしれません。そういう余白を想像するのが楽しいんです。これは私が研究してきた行動生態学の根幹にも通じる考え方です」

生態図鑑をわかりやすくするために欠かせなかったのがイラストだ。担当したきのしたちひろさんは、米原さんと同じ研究室で行動生態学の研究をしていた、長年の仲間だ。米原さんが調べた内容を元に、意図を反映したイラストを描き下ろした。米原さんは「ポケモンが生きているようなリアルな動きを描いてくれました」と話す。

2026年2月にはよみうりランド(東京都稲城市)内に600匹のポケモンの生態を観察できる「ポケパーク カントー」が常設される。ポケモン生態図鑑のように、子どもたちがポケモンを通じて生き物に興味を持つチャンスは広がっていきそうだ。

(西頭宣明)

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