転機は日韓の商標権取得
ノース・フェイスは米カリフォルニア州生まれのブランドだ。耐久、防寒、防水など性能の高いアウトドア用衣類や寝袋で、世界的な認知を確立している。
日本上陸は1978年。東京五輪(1964年)で日本代表にユニホームを提供して事業を拡大していたゴールドウインが輸入元となった。
当時、プロの登山家や探検家も使う高機能ダウン「シエラパーカ」が、アウトドアやヒッピーといった米国西海岸のライフスタイルに憧れる日本人のアイコンとなった。カリフォルニアのヨセミテ国立公園のハーフドームをイメージさせる曲線のロゴが付いた商品で、日本でのブランド力を徐々に獲得していった。
日本での商品開発は、1994年にゴールドウインが日本と韓国の商標権を買い取ってから本格化した。米国発の機能性にストリートファッションを融合させ、日本人の体形に合うデザインにカスタマイズしてきたのだ。

ノース・フェイスにはアスリートとともに開発した本格的な山岳用シリーズもある=GOLDWIN提供
1990年代に米国で開発された「ヌプシジャケット」は、日本に適応した成功例だ。過酷な山岳環境でも耐えられる機能を高めたこの商品はまず、ニューヨークのヒップホップ文化に浸透した。2000年代の日本発売の際、日本人の体格に合わせてデザインし直し、遠赤外線で体の温度を保つ「光電子®ダウン」などの技術も盛り込んだことで、日本のストリートファッションに人気が広がった。
ゴールドウインは00年代以降、衣類などの企画、製造、販売を手掛けるナナミカと日本限定のブランド「ノース・フェイス パープルレーベル」を立ち上げ、日本独自の商品開発に乗り出した。機能性を重視しつつ、都市の生活に合う洗練されたデザインの商品を充実させた結果、通勤や通学などでもノース・フェイスのジャケットを身に付ける人が増えていった。
気候変動による猛暑や豪雨にも対応するため、20年代は吸水速乾素材のTシャツやはっ水加工を施した軽量ジャケットなどを強化。街でもアウトドアでも幅広く着こなせるラインアップを充実させている。

定番人気の「ヌプシジャケット」(左)と「マウンテンダウンジャケット」(右)=GOLDWIN提供
今、売り上げを伸ばしているのはより軽く、コンパクトで雨や風をしのぎやすい機能を重視した「ウィンドジャケット」。通勤や通学、休日に持ち歩き、急な気温変化や強風にも対応できるとあってヒットにつながっているようだ。

衣料ショップJOURNAL STANDARDによるノースフェイスのパープルレーベル別注マウンテンパーカー(JOURNAL STANDARD/PR TIMES)
富山の最新ラボで開発
開発は、富山県小矢部市の富山本店に併設する「GOLDWIN TECH LAB(テックラボ)」を中核に行われている。
小矢部市は1950年にゴールドウインが「津澤メリヤス製造所」という小さな工場から出発した創業の地だ。LABは2017年に開設し、メーカーと協力した素材の開発から、縫製、型紙設計、品質管理までのさまざまな研究を続ける。美しく機能的な製品にするために改善を重ね、日本独自の ノース・フェイスのデザインを確立してきた。
例えば、開発中の寒暖差が大きい登山やトレイルランニング用のウェア。ラボから生み出された、衣服の内側に送り込む空気の量を調整することで保温性を大きく変える新しい技術を活用する見通しだ。
レインウェアのフードには、曲線に美しさを出すため、縫製や型紙設計で何度も試作と検証を繰り返し、日本独自のデザイン性を追求している。

創業の地、富山県にある研究開発施設「GOLDWIN TECH LAB」=GOLDWIN提供
東京・原宿のノース・フェイス旗艦店にはシンプルで高機能な日本版の商品を求め、中国や台湾、韓国など東アジア圏からの客が絶えない。特に定番ダウン「ヌプシジャケット」の日本版が人気だ。
米国のノース・フェイスの売り上げは年約17億ドル(約2500億円)。ゴールドウインによると、日本のノース・フェイスの売り上げ高は25年3月期に1000億円を突破した。日本の市場・人口規模が米国の3割程度と考えると、浸透率は本家を上回ると言っても良い。
アプリ開発のSTARTDASH社による、20~59歳の日本の女性を対象にしたアウトドアブランド関する調査(25年11月発表)では、ノース・フェイスが「認知度」「好感度」「高品質」の3つの分野で1位となった。
韓国版「ホワイトレーベル」にも注目
ここ数年、新しい動きもある。ゴールドウインが韓国企業と合弁で展開するノース・フェイスの「ホワイトレーベル」が日本の若者に注目されているのだ。
韓国版は、20代女性をメインターゲットに据え、日本のパープルレーベルよりさらにカジュアルでスポーツテイスト。ショート丈のダウンジャケットなどスリムでファッション性を高めたものが多く、ゆったりしたシルエットの日本版とは対照的だ。色もパステルカラーなどバリエーションが豊富だ。
東京都内に住む20代の日本人女性は「韓国のノース・フェイスには日本にないデザインのものがあり、魅力的だ」と話す。日本国内より割安な価格設定も若者に支持される理由のひとつだ。
ソウル最大の繁華街・明洞(ミョンドン)では、購入者の約4割が、中国や日本などからの観光客によるものだ。「韓国でしか手に入らない」という希少性も購買意欲を高めている。

韓国版ノースフェイスは、ダウンジャケットやバッグなどタウンユースに特化した女性向け商品が豊富=GOLDWIN提供
韓国で展開しているのは、ゴールドウインと韓国企業のジョイントベンチャー「YOUNGONE OUTDOOR Corporation」。韓国独自のマーケティング戦略を構築し、K-POPアイドルや韓国人俳優といった著名人を広告に起用している。
韓国アイドルへの関心は日韓共通の部分が多く、K-POPアイドルがノース・フェイスのジャケットを着用してSNSに写真を投稿すると、日本のファンからの注文が相次ぐ。「スター・マーケティングがこれほどぴったりはまる国はない」と、ゴールドウインのザ・ノース・フェイス事業本部副本部長の髙梨亮氏は説明する。

若年層の女性向け韓国限定コレクション。日本の公式オンラインサイトでも販売している=GOLDWIN提供
開発力生かし次の一手
売り上げの8割を占めるノース・フェイスの好調で、ゴールウインは成長を続けている。さらに次の一手として、機能性とファッション性が高い商品の開発力を生かし、自社名ブランド「ゴールドウイン」の浸透にも力を注ぐ。海外では米国、ドイツに続き中国、韓国で直営店を出店。冬のレジャーから寒冷地のタウンユースまでのブランディングに乗り出している。
特に中国では高機能素材「GORE-TEX(ゴアテックス)」を使いつつ、装飾をそぎ落としたデザインで、スキーなど冬のレジャーの人気が高まる富裕層への浸透を図る。2021年に出店した北京店の売り上げは、東京の原宿や丸の内の店舗を超えているという。
米国発のノース・フェイスは日本で独自に進化し、その勢いで東アジアにもブランドを浸透させている。日中韓を軸に、ローカライズされたそれぞれのブランドを楽しむ層も生まれ、需要を相互に高め合っている。
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