北海道の羊蹄山(ようていざん)を舞台にしたソニーのプレイステーション(PS)5ソフト「Ghost of Yotei(ゴースト・オブ・ヨウテイ)」。10月2日の発売から1カ月で世界で330万本を超えるヒットとなっている歴史アドベンチャーゲームの制作に、アイヌの母娘が共同代表を務める会社も関わった。
舞台は、江戸時代初期の1603年。主人公が羊蹄山周辺の道内をめぐり、あだ討ちの旅をする物語となっている。羊蹄山は、札幌市中心部から南西に約50キロの場所にある標高1898メートルの火山。別名「蝦夷(えぞ)富士」と呼ばれ、国内外の観光客からの人気も高い。
ゲームの制作チームは、地域性をよりリアルに表現するために、アイヌ文化を盛り込むことを決めた。ゲーム内でアイヌは行商として各地に点在していて、メインストーリーとは別に、立ち寄れるエリアとしてコタン(アイヌ語で集落)があり、サイドストーリーが展開していく。
ゲームは、北海道の美しい自然美や日本文化をリアルな描写で表現している。前作の長崎県の対馬を舞台とする「Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)」は、世界的大ヒットとなり、現地ツアーが多数組まれたり、体験型イベントが開かれたりと、国内外から「聖地巡礼」する観光客が増え社会現象を巻き起こした。
ゲーム内のアイヌ文化、アイヌ語、ビジュアルデザインを監修したのが北海道平取町二風谷地区にある、「katak」(カタク)という関根摩耶さん(26)と母の真紀さん(58)が共同代表を務める母娘の会社だ。
平取町二風谷地区は、北海道で経済産業省の伝統的工芸品に指定されている「二風谷アットゥシ」(樹皮が原材料の織物)と「二風谷イタ」(アイヌ文様が彫られたお盆)の生産地。摩耶さんの祖母(真紀さんの母)の貝澤雪子さん(84)は、最高齢のアットゥシ織り職人で、65年以上織り続けるこの道の第一人者。摩耶さんの伯父(真紀さんの兄)の貝澤守さん(60)は、イタを彫る職人で、二風谷民芸組合の代表理事。家族や親族の多くが「ものづくり」をする中で母娘は生まれ育った。
摩耶さんは小学生の頃からテレビ番組に出演し、高校生の時はラジオ番組を担当。上京した大学生時代はインターネットなどでアイヌ文化の発信をしてきた。大学卒業後に北海道に戻り、アイヌ文化を世界に発信し、文化を通じて人をつなげる仕事をしたいと、母真紀さんを共同代表に招いて2023年に会社を設立した。
真紀さんは、幼少の頃から刺しゅうや彫りまでさまざまな工芸を教わりながら二風谷で育ってきた。現在は刺しゅうを中心に作家を続けながら、さまざまな物品にアイヌ文様を入れるデザイナーとしても活躍している。
ゲーム内でアイヌをどのように組み込むかのアイデアを考案し、制作に中心的に関わり協力したのは摩耶さんだった。「表面的に語られるアイヌの“自然と共生”のような部分だけではなく、私が見てきた、聞いてきたアイヌ文化の根っこの部分をたくさんの人に知ってもらうように工夫しました。人の優しさや温かさを求めている人がゲーム内でそっとコタンに立ち寄れるような関わり方を考えました」と摩耶さんは話す。
アイヌとオオカミの関わりが反映されていたり、あらゆるモノに魂が宿っているという考え方をアイテムを受け取る際にも反映させたりして細部にこだわった。アイヌ語のあいさつでも、親しい人と会うときと初めての人と会うときの所作の違いまで具現化した。
ゲーム内のアイヌゆかりのアイテムは全部で30。モノに込められた思いも、コタンの風景やチセ(アイヌの家)も、人の所作も発言も、ひとつひとつ丁寧にアイヌの思いを込めた。真紀さんがデザインした主人公が着るアイヌ文様衣装もそのひとつ。二風谷に伝わる伝統的な刺しゅう文様を随所に織り込んだという。
真紀さんは「世界中の人が興味をもってくれるゲームに関わることができ、アイヌの文化を伝えられることがうれしい」と話す。アイヌ文化を世界に発信したいという母娘の思いが、このゲームの細部に織り込まれている。【貝塚太一】
※「カタク」の「ク」と「アットゥシ」の「シ」は小文字
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