
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。
カスタマーサービス向けAIエージェント市場は急拡大し、最も急成長している法人向けAIアプリケーションの1つになっている。米ゴージャス(Gorgias)や米シエラ(Sierra)、米コア・エーアイ(Kore.ai)など6社の年間経常収益(ARR)は1億ドルに達している。
各社は、顧客企業が人間のオペレーターの必要性を減らすことで投資対効果(ROI)を実感し、業務効率化の向上でコスト削減と増収も実現していることから、成功を収めている。この市場の平均モザイクスコア(スタートアップの健全性を測るCBインサイツの独自スコア)は714点と、法人向けテック業界の全ての市場のトップ5%に入る。
では、この市場を主導し、最も急速にシェアを伸ばしているのはどの企業か。
CBインサイツのデータを活用し、各社のカスタマーサービス向けAIエージェント&コパイロット部門の売上高を洗い出した。これに基づいて現在の市場規模を算出し、スタートアップ各社のシェアを推計した。

ポイント
・新規参入企業は生成AI技術を活用してシェアを急拡大し、リーダーに挑んでいる。シエラ、米クレシェンド(Crescendo)、米デカゴン(Decagon)、チャットベース(Chatbase、カナダ)などは創業2年未満だが、売上高は既にトップ10に入り、既存勢と直接競っている。これはカスタマーサービス向けAIの規模拡大の壁が低く、優れたAIモデルとユーザー体験により既存勢に速やかに取って代われることを示している。既存勢は競争力を保つため、こうしたスタートアップの買収に打って出ている。 例えば、業務ソフト大手の米サービスナウは米ムーブワークス(Moveworks)を28億5000万ドルで買収し、同ナイス(NiCE、イスラエル)は独コグニジー(Cognigy)を9億5500万ドルで買収した。
・この市場では、人間のオペレーターに引き継がずに顧客の問題をエンドツーエンドで解決する自律型エージェントへの移行が急速に進んでいる。これにより従来の料金体系は崩れ、米インターコム(Intercom)、シエラ、デカゴンなどのベンダーは今では座席数や利用回数ではなく、問題解決に成功した件数に応じて課金している。企業の導入担当者はパフォーマンス検証機能が含まれているツールを導入すべきだ。これによりAI支出を問題解決の成功やコスト削減の指標と直接結びつけられる。
・企業が使いこなせるかは連携の深さによって決まる。AIエージェントは対応履歴、社内のナレッジベース、顧客情報管理(CRM)データ、独自文書など企業特有の背景や状況とシームレスに連携し、一貫性のあるブランドイメージを保ちながら、顧客一人ひとりに応じた情報に基づく解決を提供しなくてはならない。エージェントが顧客の問い合わせを解決に導き、非効率的な人間のオペレーターへの引き継ぎや業務フローのボトルネックがなくなれば、企業にとって価値が生まれる。CBインサイツのデータによると、成功しているベンダーは導入・連携が容易なエージェンティックソリューションを提供している。

・エージェンティック音声AIにより顧客に提供できる価値が広がる。自然な対話や声のトーンのリアルタイム分析、感情に沿った対応など音声AIの進化により、音声は人間とテクノロジーの新たな主要インターフェースになっている。エージェンティック音声システムはテキストではつかみきれない感情のサインや会話のニュアンスを捉え、顧客の単価を向上させる機会の検知、顧客の解約・離反リスクの予想、対話中の商品インサイト(隠れたニーズ)の表面化を可能にし、音声サポートをコスト部門から収益ドライバーに変える。こうした機能の成熟に伴い、企業はKPI(重要業績評価指標)を業務効率(時間やコスト削減など)から、顧客リテンション率、コンバージョン率、AIを活用したエンゲージメントに直接起因する売上高の伸びなどの戦略的アウトカムに移行すべきだ。
市場の概要
カスタマーサービス向けAIエージェント&コパイロット市場は、複数のコミュニケーションチャネルの顧客サポートの問い合わせや処理を自動化するツールから成る。こうしたツールは顧客と対話し、質問に答え、問い合わせに応じ、問題を解決する。多くは複雑な問い合わせにも対応し、人間による監督は最小限でプロセスを完了できる。人間のオペレーターをリアルタイムで支援することもある。
この市場には商業的に成熟した企業(約40%)、デカゴンやクレシェンドのような既存勢に挑む企業、既存のカスタマーサービス企業が混在している。2025年のエクイティ(株式)による資金調達額は計10億ドルに達し、既に24年通年に並んでいる。

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