養命酒製造は30日、非公開化に向けた入札で米投資ファンドのKKRに付与していた優先交渉権を失効させたと発表した。事実上の筆頭株主で、アクティビスト(物言う株主)として知られる村上世彰氏の親族である野村幸弘氏が株式売却に応じない意向を示したため。KKRによるTOB(株式公開買い付け)は成立しないと判断し、事実上交渉を打ち切った。

養命酒は同日午前、KKRに12月上旬に優先交渉権を与えたことを明らかにする一方、2026年1月にもTOBが実施されるとの一部報道については「決定している事実はない」と否定していた。その後、野村氏側との協議を経て交渉を打ち切ったことを明らかにした。

養命酒を巡っては大株主だった大正製薬ホールディングスが3月、保有する全株式(議決権ベースで約24%)を投資会社の湯沢(東京・渋谷)に売却した。湯沢には野村氏が養命酒株の取得時に資金提供していた。

養命酒によるとKKRは25年12月1日付で1株当たりの株式価値を4021円、想定のTOB価格を4282円とする提案を提示していた。湯沢側は非公開化に賛同しつつも株式売却には応じない姿勢を崩さず、30日に示された再提案についても受け入れられないとの判断を示したという。

この結果、養命酒はKKR案について「成立蓋然性がない」と判断し、同日午後に優先交渉権を失効させることを通知したとしている。

同日午前の発表を受けて養命酒株は30日に急騰し、一時は前日比700円高の5500円を付け、制限値幅の上限(ストップ高水準)まで買われ、年初来高値(4815円)を更新した。終値は前日比680円高の5480円。今回明らかになったKKR案の想定TOB価格は29日の終値(4800円)を大きく下回る水準だった。

養命酒の業績は主力の「薬用養命酒」の販売減少や先行投資の影響で低迷している。同社は今後湯沢が株主として残る形での非公開化について協議を進める方針を示しており、取引条件は「KKR案を上回る水準が必要」との認識を示している。

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BUSINESS DAILY by NIKKEI

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