

「日本は充電技術で世界から後れている」。2025年3月、米通商代表部(USTR)は報告書で日本を名指しで批判した。その矛先は日本発の電気自動車(EV)急速充電方式「CHAdeMO(チャデモ)」に向かう。チャデモの国内設置数は約1万3000基と、急速充電器の中では圧倒的な数を誇る。だが、日本の独自規格として「ガラパゴス状態だ」と指摘される。
トランプ米政権の関税措置を巡る交渉では、外資系自動車メーカーの日本進出を阻む「非関税障壁」としてやり玉に挙げられた。やがて日本に押し寄せるであろうEV化の波に備え、インフラ整備を巡る議論の必要性が増している。
チャデモ規格の立ち上げは10年。トヨタ自動車や日産自動車、東京電力などの5社が幹事会社となってチャデモ協議会を発足した。09年に三菱自動車が世界初の量産EV「アイ・ミーブ」を発表するなど、当時EVシフトへの機運は高まりつつあった。日本発の充電方式をいち早く打ち出し、世界標準の地位獲得を目指した。だが、導入国は日本や一部アジアに限られているのが現状だ。「時代遅れ」とまで指摘されている。
競合も採用するテスラ方式
一方、北米を中心に急速に普及が進んでいるのが、「スーパーチャージャー」だ。米テスラの急速充電器として登場し、全世界で7万基を超える勢いで普及している。当初はテスラ車専用だったが、足元では米フォード・モーターや米ゼネラル・モーターズ(GM)などの競合がスーパーチャージャーの充電規格である「NACS」に対応した充電口を装備している。理由は圧倒的な利便性の高さだ。
スーパーチャージャーの特徴の1つである「プラグ・アンド・チャージ」は、充電口にケーブルを挿すだけで認証と支払いが完了、自動的に充電が開始される。出力も高く、充電時間は短い。EVユーザーにとっては「使い勝手」がいいのだ。米国政府が補助金などを通して設置を後押ししてきた充電方式「コンボ(CCS)」規格に代わり、北米市場ではNACSが標準規格を握りつつある。
スーパーチャージャーはその利便性を武器に、日本でも設置基数を増やしている。テスラジャパンの橋本理智社長は「一番の売りである圧倒的な充電速度がユーザーに認知され始めている」と話す。

イオンの駐車場内で充電
テスラジャパンがスーパーチャージャー拡大のカギと見るのが他業種との協業だ。イオンやファミリーマートの駐車場内に充電器を設置して認知拡大を図る。橋本社長は「車の充電にかかる時間は20分前後。その間の時間を買い物などで活用していただければ双方にメリットが大きい」と狙いを話す。
同社は26年までに日本での販売店を現在の23店舗(25年7月時点)から50店舗まで増やす計画だ。今後は充電施設も新店舗とリンクした形で増やすという。
自動車メーカーにも新たな動きが見られる。トヨタや日産、スバルなどは北米向けEVの充電にテスラ式のNACSを採用すると決めた。25年5月にはマツダも、27年以降に国内で販売するEVにNACSを採用すると発表した。チャデモは日本の標準規格だが、同充電方式のEVはスーパーチャージャーが使えない。マツダは利便性を考慮してNACS採用を決断した形だ。
設置数ではチャデモが圧倒
日本でもNACSが主流となるのか。チャデモとの差を埋めるにはまだ時間がかかりそうだ。現状、スーパーチャージャーの設置数は679基(25年6月時点)で、約1万3000基のチャデモに及ばない。
チャデモ協議会の姉川尚史会長は「設置数に加え、安全性でも我々に勝る規格はない」と強調する。とりわけ地方ではスーパーチャージャーの設置が進んでいない地域が多い。経済産業省による充電器設置への補助金はチャデモ規格への適合が原則となっているのが現状だ。
テスラ車でも変換用のアダプターを付ければチャデモの充電器を利用できる。「高速道路を使って旅行に行く際などは、仕方なくチャデモを使わざるをえないシーンがある」と都内のテスラユーザーは話す。
テスラジャパンの橋本社長は「国に認められて補助金が出れば、充電施設をもっと広げやすくなる」と指摘する。
メーカーにとっては開発コスト増

日本で充電規格のデファクトスタンダード(事実上の標準)が揺れている状態に、自動車メーカーは頭を悩ませている。国や地域をまたいでEVを販売する場合、規格は輸出先に合わせるのが一般的だ。外資系自動車メーカーは日本市場に進出する際、わざわざチャデモ仕様の車両を開発する必要がある。
他方で日系メーカーも同様に、北米向けと国内向けで異なる充電口を持つ車両を提供する。ある完成車メーカーの関係者は「(異なる充電規格が)開発のコスト面で負担になっている」と話す。ユーザーやメーカーにとって「障壁」となっている充電規格の不統一。将来的なEVの普及に備え、利便性を重視した充電インフラの構築が不可欠だ。
(日経ビジネス 玄基正)
[日経ビジネス電子版 2025年7月24日の記事を再構成]
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