想定外、まさか、なんで……。人生はなかなか思い通りに行きません。大学時代、私はラグビーに打ち込みました。選手として期待されていましたが、1、2年生の時からけがが多く、試合に出られないもどかしさから、ラグビーだけでなく大学も辞めてやると、捨て鉢な気持ちになったこともありました。

あの逆風の時代、私は「書く」という作業で救われました。人には言えない悲しみ、苦しさ、嘆きも、紙に書くことはできます。その過程でつらさが少しずつ薄れていきました。どうすればこの苦境を乗り越えることができるか、自分が模索すべき道を箇条書きにしました。食べることも忘れて考え抜きました。出した結論は「まだやれることはある。ラグビーを続けよう」でした。

大和ハウス工業 芳井敬一会長

大和ハウス工業に入ってからも、日常が揺らぐことは少なくありませんでした。後輩が自分より先に管理職に抜てきされたり、顧客からのクレームが相次いだりしました。そんな時も私は書くことで冷静になれました。なぜ目の前の顧客は怒っているのだろう、私にどうしてほしいのだろうなどと現状を整理し、解決策をとことん考えました。中には、明らかに理不尽で無理難題なクレームもありましたが、そんな時は笑顔で相手の手を握り、ひとこと「訴訟します。法廷で会いましょう」と告げたこともありました。お互い納得しラグビーのノーサイドに持ち込むには、自分が今の相手の立場だったらどうだろうと、いつも考えました。

社長時代、中国拠点で現金約230億円が紛失する不祥事がありました。引責辞任するべきかとも思いましたが、あの時も私は同じような手順で乗り越えました。書くことで頭の中を整理し、何をすべきか夜通し考え、夜が明けるころ決断しました。今日、記者会見を開き、すべて公表しようと。なぜ現金が紛失したのか、誰の仕業なのか、取り返せる可能性はあるのかなど、わからないことだらけでしたが、今取るべき道はこれしかないと確信しました。

ある程度、中身が判明してから会見を開くべきだという声もありましたが、中国拠点の責任者の置かれた状況を考えたら、彼の命を守ることが最優先だと思いました。会見を開けば矛先はすべて私に向かいます。

中国拠点の事件の後も、建築基準法違反や国家資格の不正取得など不祥事が重なりました。あれほどつらい日々はありませんでしたが、私を救ってくれたのが一緒に仕事をした仲間たちでした。「社長を信じています」「春は必ずやってきます」などのメッセージを続々と送ってくれました。幸運にも私には、自分の決断を支持してくれる多くの仲間がいました。

今回皆さんに伺いたいのは、「日常が大きく揺らぐとき、あなたは何を支えにしますか?」です。これまでの人生を振り返り、あなたはどうやって逆境を乗り越えたのか、教えてください。

大和ハウス工業・芳井敬一会長の課題に対するアイデアを募集します。投稿はこちら(https://esf.nikkei.co.jp/future20260105/)から。

編集委員から

取材中、芳井会長がご自身のタブレット画面を開き、見せてくれた。Our bossとタイトルがついたメッセージの数々は、不祥事が重なり、最もつらかった社長時代に、かつての部下たち約200人が送ってくれたものだ。

一人ひとりが顔写真付きで、芳井社長にエールを送っていた。会長になった今も、これらのメッセージを大事に保存し、持ち歩いている。

日常が揺らいだ時、芳井会長は好きな神社、寺めぐりや舞台鑑賞などで、ひととき頭の中を空っぽにする。その上で普段は身につけない赤いネクタイを締めてみたりする。少しスイッチを切り替えることで、また目の前のハードルに挑む勇気を取り戻す。

芳井会長は「私は強い人間ではないが、壊れかけたものを直すのは得意かもしれない」と語る。自ら率いる組織の日常が何度か揺らいだが、決して逃げないという強い意志は変わらず、周りにはいつも決断を支持してくれる仲間たちがいた。(客員編集委員 鈴木亮)

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今回の課題は「日常が大きく揺らぐとき、あなたは何を支えにしますか?」です。420字程度にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは13日(火)正午です。優れたアイデアをトップが選んで、26日(月)付の未来面や日経電子版の未来面サイト(https://www.nikkei.com/business/future/)で紹介します。投稿は日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご応募ください。

未来面

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