香川県が解体工事の入札を公告した旧県立体育館。日本最初期のつり屋根構造で、独特の外観から「船の体育館」と親しまれてきた=高松市で2025年7月23日午後0時59分、森田真潮撮影
写真一覧

 世界的な建築家の丹下健三が設計を手がけた「つり屋根構造」の旧香川県立体育館(高松市)を巡り、公費負担を求めない活用案を提案した民間有志の団体が26日、2回目の記者会見を高松市で開いた。解体工事業者を決める入札手続きを進める県に対して、入札公告を止めて協議に応じることを求めた。また、県との協議を実現するため、建物の解体を差し止める仮処分の申し立てや、税金の使い方を問う住民監査請求といった法的手段を活用していくことを表明した。

県は解体工事の入札を公告

 旧県立体育館は和船を思わせる特徴的な造形から「船の体育館」と親しまれてきたが、老朽化や耐震性不足などから県は解体を決め、2025年3月に解体工事費約10億円を盛り込んだ予算案が県議会で可決された。建築家らの民間有志団体「旧香川県立体育館再生委員会」(長田慶太委員長)が7月、民間資金で耐震改修後にホテル事業などに活用することを提案したが、県は8月5日、「解体手続きの先延ばしはできない」として解体工事業者を決める入札を公告した。入札期間は9月2~4日。技術提案型の総合評価方式で、工期は27年9月17日まで、予定価格は約9億2041万円としている。

「倒壊の危険、想定されない」

 この日の記者会見で再生委は、「建物全体が直ちに倒壊する危険は想定されない」とする建築構造の専門家の見解や、これまでより具体的な事業計画を示した。

「旧香川県立体育館再生委員会」が2025年8月26日の記者会見で示した、「船の体育館」の耐震性を巡る県の主張との違い=同委員会提供
写真一覧

 耐震性については、田中正史・東海大准教授の評価に基づき、「プレストレストコンクリート構造」のため大地震時にもコンクリートの剥落や倒壊を抑止することが可能▽つり屋根は留め具でケーブルに接合された1・1メートル四方の小さな板を並べて形成され、経年変化で留め具が壊れても屋根全体が崩壊する懸念はない▽過去の耐震診断では簡略化された構造モデルが用いられていたが、現在ではより精密な構造解析により効果的かつ合理的な耐震補強の提案が可能――などと指摘し、地震による崩壊の危険からすぐに解体が必要だとする県の論拠に疑問を示した。

 さらに、元日本建築学会会長の斎藤公男・日本大名誉教授がオンライン登壇し「(建物の)下部構造が少し浮いていることで耐震性の問題が生じるが、補強をすれば十分に今後とも使える。液状化の問題を考えても倒壊はあり得ない」などと説明した。

出資・事業参加意向の業者を公表

 事業計画については、投資ファンドからホテル運営、まちづくりまでを営む「Staple(ステイプル)」(東京都中央区)の岡雄大代表取締役が、出資・事業参加に確定的な意思を持っていることを明らかにした。1棟ホテル案の場合、60~70部屋、客室平均単価5~6万円、稼働率7割を想定し、飲食などの売り上げを含めて、初期投資約60億円に対して3年目以降は安定して純収益4・5億円を見込むとして、「不動産投資として十分な利回り」だと説明した。

建築模型を示しながら耐震診断モデルのアップデートを説明する「旧香川県立体育館再生委員会」のメンバーや協力者ら。(左から)後藤治・工学院大総合研究所教授、長田慶太委員長、上杉昌史副委員長、青木茂理事、山口誠二・乃村工芸社ビジネスプロデュース本部第2統括部統括部長=高松市浜ノ町で2025年8月26日午後1時13分、森田真潮撮影
写真一覧

 また、文化庁の文化審議会で文化経済部会・建築文化ワーキンググループ(WG)座長を務めている後藤治・工学院大総合研究所教授は、同WGで、(文化財の原状保存でない)民間の再生建築に対しても文化財などと同様の補助や税制優遇などの制度化を検討していることを紹介した。そのうえで、旧県立体育館の解体が止まれば、「国内初の支援対象モデルになるよう働きかける」と表明。さらに「(解体という)議会の議決が見直されるのは、新しい情報が明らかになったとき。今回の構造計算も建築文化振興に関する(国の支援が検討されているという)話も、いずれも新しい情報だ」と指摘した。

 再生委の長田委員長は「今回、法的手段を取るのも、協議を実現させるため。オンライン署名も4万筆を超えた。どこかに風穴が空いてほしい」としている。

県は「先延ばしできない」

 旧県立体育館は、ケーブルで屋根をつり下げるつり屋根構造で柱のない大空間を実現している。タイプは異なるが、同年に完成した同じく丹下建築の代々木競技場(東京都渋谷区)=国重要文化財=と共に、日本最初期のつり屋根構造の建造物だ。

 14年に耐震改修工事の入札が不調に終わり閉館。21年には県教委が「サウンディング型市場調査」で民間事業者から活用・改修案を集めたが、県の財政支援なしでは持続的な運営が難しいとして採用には至らなかった。県と県教委は23年に「苦渋の決断」などとして解体方針を表明した。

 25年7月に再生委が「解体という判断の前提条件が変わった」として再検討の協議に応じるよう県側に求めたが、県側は入札手続きに入り、これまで「(提案では)旧県立体育館を所有し活用する具体的な主体や計画等は明確になっておらず、(解体手続きの)先延ばしはできない」「安全性の確保のためのやむを得ない判断だ」などとしている。【森田真潮】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。