トヨタ自動車グループの自動車部品大手、東海理化(愛知県大口町)が、畑違いのeスポーツの世界に進出している。ゲーム用のキーボードに始まり、昨年9月には格闘ゲームなどに使用するアーケードコントローラー(アケコン)用のボタンキットを発売した。
自動車用スイッチ類などのシェアは世界トップクラス。そんなB to B(企業間取引)企業の代表格ともいえる同社で、eスポーツ向け機器の開発が始まったのは5年前のことだ。部品供給にとどまらないB to C(消費者向け)ビジネスへの挑戦は、一人の若手社員のひらめきから始まった。
新規事業を担当する部署にいた橋本侑季さん(34)は、幼少期からポケットモンスターなどのテレビゲームに親しんでいた。2020年冬ごろ、パソコン用のシューティングゲームの動画を見て「おもしろそう」と関心を持ち、PCゲームをするようになった。
プレーを楽しむ傍ら、機器について調べてみると、海外製ばかり。サポート面や耐久性に心もとなさを感じる中、ふと思った。「これ、自社の技術を使って作れるんじゃないか。部品開発で培った高い技術なら、ゲームの腕を競うeスポーツ選手の期待にも応えられるはずだ」
21年2月、企画書を作り上司に提案。すると「未知の世界ではあるけど、最後までやりきってみたらいい」と後押しされた。
のちに社のスローガンにもなる「脱これまでの東海理化」。社内では、従来の受託型体質からの脱却が図られようとするタイミングでもあった。そうしたチャレンジングな雰囲気にも押され、橋本さんはプロジェクトリーダーとして走り出す。より良いものを目指し、eスポーツのプロ組織「ZETA DIVISION」(東京)との共同開発が始まった。
自動車のシフトレバーの技術で
最初に取り組んだのは、ゲームで使用するキーボードの開発だった。eスポーツの世界では使用機材に決まりはなく、選手によって異なる。機器そのものがプレーヤーの競技力に直結するため、どんな機器なら勝てるのかをチーム一丸となって考えた。
こうして、適切な反応速度を追求した独自のキースイッチ(キーボードの各キーに内蔵される部品)を完成させた。特徴は磁気を使っていることで、「今では主流になっているが当時は珍しかった。自動車のシフトレバーの技術を使った」と橋本さん。バネを使った従来のキースイッチより耐久性に優れている。
さらに、自社独自の新技術を用いて、押した時のガタつきも極限まで抑えた。「他社はメーカーからスイッチを買って組む。一方、僕らはスイッチを作っている会社なので、一から最適化できる」。23年5月、このスイッチを搭載した「ゼンエイムキーボード」を市場に送り出した。
「トヨタ生産方式」を活用
だが、初挑戦は甘くはなかった。ゼロから設計したためコスト面で課題が残った。市場相場が2万~3万円のところ、税抜き4万3800円という価格に、ユーザーからは「手が出ない」との声が寄せられた。
そこで取り組んだのが、徹底的なコストダウンだった。TPS(トヨタ生産方式)を活用し、製品に使われる一つ一つの部品の仕様や調達ルートを細かく再検討。「性能を犠牲にすることなく、数百点ある電子部品も一つ一つ、数円でもコスト削減できないかをチーム皆で考え、取り組んできた」と橋本さんは振り返る。
昨年9月、サイズを抑えて発売した「ゼンエイムキーボード2mini」は、性能を下げずに価格を税抜き2万9800円まで落とした。売れ行きは好調で、ユーザーからも「今まで使ったキーボードの中で一番いい」などと高い評価を受けている。さらに、同じスイッチを搭載したアケコン用ボタンキットも同時発売。超高速入力を可能にした機能を盛り込み、市場でも注目を集めている。
同社では、今後も新たなキーボードやマウスの発売を予定する。橋本さんは「製品には誇りを持っているので、ユーザーも自信を持って使ってほしい」。新たなマーケットでの挑戦は続く。【川瀬慎一朗】
東海理化
1948年設立。車のスイッチ、シートベルト、シフトレバーなどを手がける国内有数の自動車部品メーカー。ウインカーやワイパーの操作スイッチでは世界でもトップクラスのシェアを誇る。連結社員数は2万人を超える。
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