
三菱商事が秋田県、千葉県の沖合3海域での洋上風力発電事業から撤退すると表明した。風車など部品価格の高騰で採算が見通せなくなった。政府は事業者を再公募するが、2028年からとしていた稼働は大幅な遅れが必至だ。
四方が海の日本は、再生可能エネルギーの中で洋上風力への期待が高く、政府は電源に占める風力の割合を直近の1%から今後15年で4〜8%へ高める目標を掲げる。脱炭素を着実に進めるため、事業環境の激変に対応した公募制度の見直しを急ぐ必要がある。
国が公募する沖合海域では9つの大規模事業が決まっている。三菱商事を軸とする企業連合は21年の最初の入札で安い売電価格を提示し、3事業を総取りした。しかしその後の物価高騰で資機材の調達費が跳ね上がった。事業を再検討するとし、25年3月期に524億円の損失を計上していた。
記者会見した中西勝也社長は「建設費が当初の見込み額の2倍以上に膨らみ、事業計画が困難になった」と撤退理由を説明した。
固定価格買い取り制度(FIT)で他の応札事業者を驚かせる安値で落札し、「あの価格で本当に採算がとれるのか」と疑問視する声も出ていた。独自のコスト低減を見込んでいたが、結果的に見通しが甘かった面は否めず、地元にも甚大な影響を与えた。
事業環境の悪化を受け、政府は公募ルールの再設計を進める。事前の海域調査は政府機関が請け負うほか、公募後に部品調達費が上昇した場合に一定程度を売電価格に反映できる仕組みを導入する。海域を独占使用できる事業期間もいまの30年から延長する方向だ。
為替影響を軽減するには、部品の国産化も重要になろう。
再エネ推進には事業者が採算を得やすい仕組みづくりが欠かせないが、電気料金に上乗せされる「再エネ賦課金」の増額など国民負担がさらに増える可能性もある。脱炭素と安定供給の両立は、原子力の活用、火力の低炭素化などと併せて全体最適を探るべきだ。
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