年間200万人が訪れ、富士山を一望できる山梨県富士吉田市の道の駅「富士吉田」。道路を挟んだ南側に、黒い外壁の平屋が建っている。2頭のシカのモニュメントが出迎え、カラマツの林に囲まれたテラスが広がる。施設内には、猟師が仕留めたシカやイノシシを処理・加工する多彩な設備がそろっている。
2024年7月に開業した「富士山ジビエセンター」は、市がふるさと納税の寄付金約3億円を活用して建設した。ソーセージやハンバーガーの販売スペースもあり、道の駅の利用者らが訪れる。整備を主導した市ふるさと寄付推進課の渡辺英之課長(49)は「利益を出すため、解体から製品加工まで一貫してできるようにした」と語った。
渡辺さんは15年からふるさと納税を担当し、18年に農林課の鳥獣担当に異動した。「現場を見なきゃ分からない」と考え、狩猟免許(第一種銃猟、わな猟)を取得。猟友会に入ってベテラン猟師らの話を聞くうちに、担い手不足が進む現状が見えてきた。
市はシカやイノシシの被害を防ぐため、県の計画を基に年度ごとの捕獲数を定めている。富士山周辺はシカが多く、駆除すれば市から1頭1万5000円の報奨金を得られる。ただ、狩猟者登録や猟銃の維持管理で費用がかさみ、ボランティア同然の待遇だという。
さらに、仕留めた個体は穴を掘って埋めるか、自分で食べるしかなかった。高齢者にとって穴を掘る負担は大きく、処理施設の整備を望む声も上がったが、市に予算を捻出する余裕がなかった。
そこで渡辺さんは、ふるさと納税型クラウドファンディング(CF)を活用した。地域の課題を解決するために使い道を決めて寄付を募る仕組みで、ふるさと納税に比べ使途を明確化できる。寄付者は従来通り返礼品を受け取れる。市はこれまで10回実施し、全てで目標額を超える寄付を集めている。
ふるさと寄付推進課に戻った21~23年、シカの食害や猟師の担い手不足の解決を掲げてふるさと納税型CFを2回実施し、6億円以上の寄付を集めた。ジビエセンターの建設費約3億4000万円は、農水省の補助金6000万円を除く費用を寄付でまかなった。
センターの運営は市100%出資の公社が担い、シカやイノシシを月に15~20頭受け入れる。状態によって3000~1万円で買い取り、猟師は報奨金以外の収入が得られるようになった。以前は埋めていた肉が加工食品として販売され、新たな返礼品にもなっている。
命の大切さなどを学ぶ施設としての活用も目指す。1月17日には、子ども向け職業体験施設「キッザニア」の運営会社と連携し、県外の小中学生23人を受け入れた。わな猟の紹介やシカ肉ソーセージづくりを通して、ジビエへの理解を深めた。
施設の愛称は「DEAR DEER(親愛なるシカさま)」。寄付者からの公募で決め、駆除してきたシカを地域資源に生かそうと敬意を込めた。渡辺さんは「施設が徐々に浸透し、猟師のモチベーションにもなっている。マイナスだった存在をプラスにしていきたい」。【野田樹】
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