父の店で働いた10代
デイカス氏は、ことし5月、外国人として初めてセブン&アイ・ホールディングスの社長に就任した。
アメリカ カリフォルニア州出身で母親は日本人。アメリカ人の父親はセブン-イレブンのオーナーを務めていたという。

日本語も堪能で、この日のインタビューは日本語で行われた。
デイカス氏
「10代の時におやじの店舗で働いてる時に、親会社の社長になるとは想像していませんでした。金曜日と土曜日の夜中のシフトで働いていました。当時は全然楽しくなかったのですが、やはりあの経験は、いま考えるとすごくよかったと思います」

「株主の価値 低すぎる」
カナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールからの買収提案が明らかになったのは去年8月。
提案はことし7月に撤回されたものの、この先、自社単独でどのように成長の道筋を描いていくのか、依然として大きな課題に直面している。
デイカス氏
「まずなぜ提案があったかを考えると、すごく単純なのですが、われわれの株主の価値が低すぎたと思います。今でも低いと私は思っています。だからそれを上げていくために会社にいろいろな変化を起こさなければいけないと思っています」

直面する課題とは
世界の19の国と地域にコンビニ事業を展開するセブン&アイだが、デイカス氏の現状認識は厳しい。
デイカス氏
「グローバルでやるのだったらマネジメントプロセスと人材を、そして組織をグローバルマネジメントに合うようにしなければいけないのですが、我々はそれが全然できていなかった。本当の意味でのグローバルの計画、中期計画がなかったんですね。それがないとやっぱり1つの会社として動けません」
ことし8月、会社は新たな経営戦略を公表した。

デイカス氏
「いままでは、各国が別々に動いていて、ブランドは一緒だけれども、働き方や戦略が全部違っていました。今回はゼロベースで、グローバルカンパニーとして何をやりたいのか、何が大事なのか、何をするべきなのかというところから出発して、5か年計画ができました」
2022年にセブン&アイの社外取締役に就任し、内外から会社を見続けてきた中で、最も大きな課題だと感じているのは、「人材の育成」だという。
デイカス氏
「一番の問題は人材育成。グローバルに拡大するためにどうやって必要な人材を育てるのかということがすごく大事で、人がいないと成長できない。すばらしい人材は日本やアメリカなどにもいますが、その人たちをどう育成するか、次世代のリーダーは誰なのか。例えば欧州に行くために、じゃあ誰がリーダーシップをもってやっていくのかということは明確になっていなかったし、今もなっていません。これからそのような計画を作っていかないといけないと思います」
日本市場 勝算は?
グローバル企業として飛躍するために欠かせないと考えているのが、国内事業のさらなる成長だ。
現在、2030年度までに国内でコンビニの店舗数をおよそ1000店増やすという方針を掲げている。
国内では人口減少が続く中、勝算をどう見ているのだろうか。

デイカス氏
「日本市場は店舗が多すぎるという話は、10年前、20年前、30年前からもありました。その間に店舗数はまだまだ伸びているんです。たぶん10年後にも、店を出せないという話はあるかもしれないが、もっと革新的なことをやれば可能だと思います。
われわれが出していないところにもニーズがあると思います。例えば、われわれのお店がない小さな商圏があれば、小型店舗を出せばより多くのお客様を喜ばせることができる。非常に小さな店舗、オフィス街や駅構内の店舗など全部考えると、まだまだ成長の余地はあると思います」
日本のタマゴサンド アメリカへ
インタビューを進める中で、デイカス氏から突然、記者に質問が投げかけられた。
「アメリカから来た観光客がうちの店舗で何をよく買っていると思います?」
答えは、日本のコンビニではおなじみの「タマゴサンド」だという。

デイカス氏
「データを見ると、どの国の人が日本で何を買っているか分かるんです。アメリカとカナダ、北米の人は圧倒的にタマゴサンドを買っているんですよ。それは向こうでも話題になっていて、向こうの友達から『なんであの有名なタマゴサンドがアメリカにないのか』といつも言われている。年内にも日本で販売しているようなタマゴサンドをアメリカに投入します。向こうの人からするとイノベーションですよね」

今後、日本市場で生まれた商品を積極的に海外でも展開するなどして、競争力を高めていきたいとしている。
デイカス氏
「日本のお客様は品質にすごくこだわりがある。いいものを安く買いたい。日本のレベルは圧倒的に高いと思います。だからこそ海外の観光客が日本に来た時にセブンの食品を食べるとびっくりする。日本で勝てればどこでも勝てると考えています。客のニーズに応えるために、サプライチェーン全体をよく、厳しく見て、コストをぎゅっと絞って、お客様が感じるところに投資していく。グローバルで拡大するには、日本のイノベーションをグローバルにもっていかねばならない。日本の強みを他の国に持っていけば、絶対にわれわれはそこで勝てると思います」
今後、成長を加速させるために、外部の力も積極的に活用する方針だ。
デイカス氏
「いままではあまり外部のサポート、アイデアも持ってきていなかったと思います。社内でいろいろな商品開発などやってきたが、うちだけではなく、外部のパートナーを巻き込んでやったほうが、われわれが見えていないことも見えてくると思います。そうすることでだんだん、おもしろい商品を作ったり、おもしろい店を作ったりできるのではないかと思います」

クシュタールによるセブン&アイへの買収提案は、業界のトップ企業さえも、海外からの厳しい攻勢にさらされる時代になったことを象徴する事案でもあった。
8月の会見で、「長期にわたる成功は会社に慢心をもたらし、イノベーションのスピードを低下させていた」と語っていたデイカス氏。
自社のビジネスの強みと課題を見極め、その価値や役割をもう一度磨き上げることができるのか。
今後の動向に引き続き注目したい。
(8月28日「おはBiz」などで放送)
富岡 美帆
2019年入局
高松局を経て現所属
この夏から、流通業界の取材を担当
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