
割れた窓ガラス、さび付いた給水塔、コンクリートの床についた無数の染み……。ホラー映画に登場しそうな「廃虚」物件が、レンタルスタジオとして活用されている。
5月、名古屋市中村区のホールで開かれた映像祭で15分弱の短編作品が上映された。10代の兄弟が格闘の末に敵を退ける内容で、薄暗い空間が作品の雰囲気を作り出す。撮影場所となったのは、中区新栄の空きビルを活用した「廃虚スタジオ」だ。
1968年に建てられた空きビルは3階建て。1階が倉庫、2階が住居、3階が事務所(学習塾)として使われてきた。曇りガラスがはめ込まれたドアや、水回りのシンクに「昭和」の雰囲気が漂う。
映像祭を主催する「ザットインターナショナル」(大矢善司社長)の所有物件。2023年から1棟をまるごと、スタジオとして貸し出している。
JR中央線・千種駅から徒歩5分ほどの場所で、ライブハウスやミニシアターが点在する今池にもほど近い。ミュージックビデオやコスプレーヤーの撮影などの用途で若者が多く、24年は60件の利用があったという。
近畿大学建築学部の堀口徹教授(建築都市デザイン)は1990年代の後半から、廃虚を「未来都市」のように演出する手法があったとし、「ロケ地として若年層が好む造りになっている」と分析。ビルに入居者の生活感が残っている点も魅力の一つだとする。
大矢社長は「今はスマートフォン一つで映像作品を撮り、編集できる時代。スタジオの利用で、映像の作り手の可能性が広がればうれしい」と話している。【梶原遊】
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