
開始3年で全国1800店に拡大
「結果にコミットする。」のキャッチフレーズで一躍有名になったフィットネスジム「RIZAP」。運営企業のRIZAPグループはいま、「コンビニジム」という新しいコンセプトの「chocoZAP(チョコザップ)」を全国展開する。
カラオケやランドリーサービスを提供する異色のスタイルが話題を呼び、2022年7月の展開開始から会員数はわずか3年足らずで135万人、店舗数は1800店舗(25年5月時点)に広がった。なぜRIZAPグループは新しいジムの概念をつくり出し、世の中に広く受け入れられるようになったのか。
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24年5月、RIZAPグループの本社で瀬戸健社長への報告会が開かれた。この日の議題はチョコザップの店舗内で提供する新サービスのアイデア発表だった。
プレゼンターを務めたのは社内システムエンジニアとして働く若手女性社員。「私がプレゼンするのはお客さんの目線として欲しいモノです」。提案したのはなんと「電子ピアノ」だった。
ピアノは大人になると仕事や家事に忙殺され、触れる機会が一気に減ってしまう。もし会員がチョコザップに立ち寄ったときに電子ピアノが置いてあったとしたら、何気なく触ってみて楽しさを思い返すのではないかと考えた。
「議論よりも、やるのが一番早い」
普通であれば「本当にジムで電子ピアノなんて弾く人がいるの?」と腕組みする経営者もいるはずだ。だが、瀬戸社長は考え込む素振りすら見せず「やってみましょう」と即決した。いとも簡単にゴーサインを出す理由を尋ねると「やるかやらないか侃々諤々(かんかんがくがく)と議論するより、やるのが一番早い」と言い切る。

チョコザップは「コンビニジム」という新しいコンセプトを掲げる。消費者がどのように受け止めるか、あるいは会員になった人がチョコザップに何を求めているか、誰も明確な答えを持ち合わせていない。
実験は小規模にやれば、仮に失敗したとして最小限の損失で済む。当初の想定を上回る好反応や「セレンディピティー」と呼ばれるような予想もしなかった幸運な結果を得ることも期待できる。
サービス開発に直接関係のない社員からアイデアを募るのにも意味がある。瀬戸社長は「本質的に顧客に近く、企業のルールに良い意味でとらわれない」と話す。玄人だけで考えたアイデアは、マニアックすぎてビギナーにとっては興味の対象外になってしまう。
チョコザップの事業は、失敗を伴う実験の繰り返しを前提としている。提供するサービスだけでなく、出店戦略でも同様だ。駅前や商店街だけでなく郊外の国道沿い、またわざと商圏が重なりあう地域に出して反応を試してみることもある。

「PDCAサイクル」、評価・確認(C)が肝心
問題解決を継続的に行うために仮説と検証を繰り返す考え方として「PDCAサイクル」と呼ばれる概念がある。まずは計画(Plan)を立て、実行(Do)し、成果や問題点を評価・確認(Check)する。改善策を考え次に生かす(Act)。
瀬戸社長は「一番おいしいのはCだ。これが成長の源泉にある。検証こそが楽しみであり失敗を成功の母にできるかどうかのポイントになる」と話す。
もちろん最初から仮説を精度高く作り込むことは容易ではない。そのため規模の小さい取り組みをたくさん実行して経験値として手に持っておくことで、次に何かを実行するときはより精度の高い仮説を持つことができるようになる。
日本は失敗があまり好まれない国だ。オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード氏が世界各国の国民文化を定量化してまとめた「ホフステードの6次元モデル」と呼ばれる指標がある。
仮説と結果を検証、失敗とうまく付き合う
日本が高いスコアを出していることで特徴的なのは「不確実性の回避」と呼ばれる指標だ。スコアが高ければ高いほど、何か予測できないことに対してリスクを回避しようとする傾向が働く。また「完璧主義」や「目標必達」といった考え方が強い文化であることが分かっている。
失敗をマイナスと捉える考え方は教育や受験、企業の人事評価の中にも染みついており、社会全体で考え方を変えるにはなお時間がかかるかもしれない。
しかし、実際にイノベーションを起こそうとしてもそこに明確な答えが用意されているケースはない。「こうではないか」でなく「やってみたらこうだった」という仮説と検証、そして失敗とうまく付き合う姿勢はチョコザップから得られる大きな学びだ。
(杜師康佑)

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