未財務資本に関する説明会に登壇した斎藤社長(1日、東京都中央区)

TDKが企業文化の転換を急いでいる。M&A(合併・買収)を通じ、9割が日本人男性だった従業員構成は、足元で外国人が約7割、女性が約5割と大きく様変わりした。多様性を武器に、自由な意見交換を通じて次の事業の柱を生み出そうと模索する。

「未財務資本を通じた企業価値向上に向けて」。TDKが聞き慣れない名称の投資家向け説明会を1日に開いた。「未財務資本」とは一般的に非財務資本と呼ばれ、人材活用や組織文化といった財務諸表に載らない競争力を指す。

「非」ではなく「未」を使ったのは「財務を否定するのではなく、財務資本につながるものだから」という。説明会で斎藤昇社長が強調したのは「多様性尊重の文化と『機能対等』の精神」だ。

機能対等とは社員の役割や機能に上下はないという考えをもとに、意見や提案を平等に扱うことを意味する。産業界ではホンダの年齢や職位にかかわらず議論する企業文化「ワイガヤ(ワイワイガヤガヤ)」が有名だが、そのTDK版といえる。

不採算事業からの撤退といった重要な経営判断にも機能対等の考えを持ち込む。TDKは事業を約80のユニットに細分化し、投資に対する収益性や将来性を厳密に管理する。収益性が低い事業はてこ入れや売却などを検討する。2024年からは部長級が中心のユニット長が、定期的に社長ら経営陣と議論を重ね判断することにした。

TDKはM&Aを駆使しながら屋台骨となる製品を時代に合わせて変え、成長してきた。祖業のフェライト磁石からカセットテープ、ハードディスク駆動装置(HDD)の磁気ヘッド、そして現在はスマートフォンの電池へと主力が移ってきた。スマホ向け電池では世界シェア5割超を握る。

電池部門は25年3月期の連結売上高の5割、営業利益の8割を占めた。激しく技術が変化するなかでスマホ電池に依存する収益構造からの脱却はTDKの喫緊の課題だ。

新たな事業創出を目指すうえで武器となるのがTDKの多様性だ。世界で10万人超の従業員のうち、8割がM&Aで傘下入りした企業の社員だ。外国人比率は25年に74%、女性比率は46%と、9割が日本人男性だった17年からわずか8年で大きく変わった。

芽は出始めている。未財務資本説明会では、地域や部門を超えた組織横断型の取り組みとして複数の人材育成プログラムを紹介した。そのうちのひとつ、役員候補者の育成プログラムからは24年にスタートアップ、TDK SensEI(センスイーアイ)が生まれた。

センスイーアイは、産業機器向けに人工知能(AI)を使って故障などを予防するサービスを提供する。主力製品の一つであるセンサーを活用するが、考案者にセンサー部門出身者はいない。電子部品単体の販売だけでなく、安定した継続課金収入が見込める新たなビジネスモデルの構築を目指す。

ゴールドマン・サックス証券の高山大樹アナリストは「事業や国籍が異なる多くの子会社をまとめあげる独自の企業文化が、経営陣から現場に向かって浸透し始めている。緩やかな連携や多様性の受容が今の時代に合っている」と評価する。

ニーズや技術進化が急速に変わるAI時代には、変化を先取りする柔軟な思考がますます求められる。多様な人材を生かすには、機能対等の精神をすみずみまで浸透させることが求められる。

(薬文江)

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