
【ソウル=小林恵理香】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は21日、最高人民会議(国会に相当)で演説し「私たちは絶対に核を手放さない」と明言した。米国が非核化の要求を取り下げる場合には対話に応じる構えを見せた。
金正恩氏とトランプ米大統領が2018〜19年に3度にわたって米朝首脳会談を実施した際の主要課題は非核化だった。米国は「最終的で完全に検証された非核化」の実現まで北朝鮮への制裁を維持する方針を崩さず、決裂した経緯がある。
米国に北朝鮮が「核保有国」であると認めさせ、制裁解除と取引する可能性があるとみられていたが否定した。金正恩氏は「制裁解除に執着し、敵対国家と何か交換するような交渉などなかったし、今後も永遠にない」と断言した。
朝鮮半島での「危険な事態の発展は絶対に望まない」としつつも、有事になれば反撃に出ると示唆し「韓国と周辺地域の同盟国は一瞬にして壊滅するだろう」と威嚇した。

韓国の李在明(イ・ジェミョン)政権は北朝鮮の核問題を巡り、完全な核廃棄を要求するのではなく「核開発凍結、縮小、非核化」と段階を踏んで非核化につなげる方針を示していた。金正恩氏は演説で段階的な非核化協議の可能性についても否定した。
トランプ氏は25年内にも再び金正恩氏との直接対話の実現に意欲を見せる。金正恩氏は演説のなかで「個人的にはトランプ氏に良い思い出を持っている」と触れ、対話に応じる余地を残した。
トランプ氏は2期目に入って以降、繰り返し北朝鮮を「核保有国」だと発言している。北朝鮮側には歴代の米政権が踏襲してきた「非核化」の目標を後退させる好機と映る。
北朝鮮が交渉に向けて強気な姿勢を見せる背景にはロシアや中国との関係強化がある。
北朝鮮は23年以降、ウクライナ侵略への兵士派遣など軍事面を中心にロシアとの関係を深めた。9月初旬にはおよそ6年ぶりに金正恩氏が訪中し、習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談した。米国との対話をにらみ、中国を後ろ盾とする狙いもあったとみられる。
一方で韓国を巡っては「最も敵対的な国家」と表現し、対話には応じない姿勢を鮮明にした。南北統一については「一方が消滅しない限り成立し得ない」と指摘し「断固として統一は不要」と主張した。
韓国大統領府の関係者は今回の金正恩氏の演説を受けて「北朝鮮を尊重し、吸収統一を追求することはなく、敵対的行為をする意思はない」と述べた。「緊張緩和と信頼回復を通じて南北間の敵対を解消し、平和的関係の発展を進める」と語った。
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