伊藤隆敏氏は日銀の物価目標導入を早くから提唱してきた(2022年11月、コロンビア大)

【ニューヨーク=斉藤雄太】米コロンビア大教授の伊藤隆敏(いとう・たかとし)氏が9月20日、死去した。同氏の研究室が23日発表した。74歳だった。葬儀は近親者で行った。マクロ経済や国際金融研究の第一人者で、インフレ目標の導入を提唱して日銀の金融政策に大きな影響を与えた。

同研究室によると、伊藤氏は病気の療養中だった。詳しい死因は明らかにしていない。葬儀は近親者のみで実施した。

伊藤氏は1979年に米ハーバード大で経済学の博士号を取得し、東大など日米の大学で教壇に立った。2015年からコロンビア大の国際関係公共政策大学院の教授を務め、米国で日本経済や政策について論じるとともに、日本の実情を米国の政策当局者や学界に伝える顔役ともいえる存在だった。

国際通貨基金(IMF)の調査局や大蔵省(現財務省)の副財務官としての勤務経験もあり、政策現場での知見を踏まえて様々な政策提言をしてきた。日銀の黒田東彦前総裁とも付き合いが深かった。

金融政策では、2001年に著書「インフレ・ターゲティング」を発刊するなど、一定の物価上昇率をめざして政策運営をすべきだとする物価目標の導入を早くから支持してきた。08年には自民党の福田康夫政権(当時)が伊藤氏を日銀副総裁とする人事案を提示したが、日銀の正副総裁人事が民主党との政争の具となり、国会の同意が得られなかった。

日銀は13年に2%の物価目標を導入し、黒田氏のもとで異次元緩和を始めた。伊藤氏は22年の取材で物価目標の開始後10年間の成果について、政策の説明責任が高まり、デフレから脱却し経済環境も改善したと指摘した。「大成功とはいえないが、失敗ではなかった」と述べていた。

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