ベトナムなど東南アジア食材を販売する岩手県北上市の食材店が、外国人労働者の交流の場になっている。ベトナム人の店主、ヴォン・ダック・ホイさん(28)によると、岩手県内に同様の専門店は他にない。休日にはマイクロバスで団体客が来ることもあるという。
ホイさんの店「ヴォン・ホイ・マート」はJR北上駅から徒歩数分の雑居ビル1階にある。店頭には東南アジア各国の国旗がたなびき、中に入ると色鮮やかなパッケージ入りの食材がずらり。見慣れない種類の生野菜も並び、冷凍庫にはヤギやカエルの肉も。店内のややスパイシーな香りもどことなく異国風だ。
「最初はベトナムだけでしたが、今はインドネシアやミャンマーなどの食材も置いています」
2022年に開店。しばらくすると他の東南アジア出身者が「ひょっとして自国食材もある?」と訪ねるように。せっかくの客をがっかりさせては申し訳ないと、他国の食材も扱うようになった。
「ベトナム食材はネットで仕入れ元を探せましたが、他国のものは言葉が分からないこともあり大変でした」と振り返る。関東などの各国食材店を訪ねて教えを請い、少しずつ仕入れを増やしていったという。
首都ハノイ郊外で生まれ育ったホイさんは高校時代、貨幣価値の高い外国で稼ごうと決意。行き先は迷いなく日本に決めた。幼い頃から「ドラえもん」や「ドラゴンボール」などのアニメで親近感があったという。
高校を卒業した16年、大阪の日本語学校に入学。京都の自動車整備士学校に進んで資格を取り、卒業後は滋賀の工場に就職した。
ただ、ホイさんには「経営者になりたい」という夢があった。ベトナム料理店経営を考えていたが、関西には先駆者も多かった。
「あまりベトナム料理店のない地域に行かなくては」と日々、ネットでベトナム人向け求人情報を収集。北上市の自動車部品工場の仕事を見つけ、21年に引っ越した。
そこでまず困ったのは、日々の料理に使うベトナムの調味料などを買える店がないこと。同僚も困っていた。そこで、「同胞向けに食材店を開けば良いのでは」とひらめいたという。
すぐに情報収集を始め、北上市への転居から1年3カ月後、早々と開店にこぎ着けた。開店費用は約800万円。来日以降、貯金していたが全く足りず、留学生時代の友人ら3人から計500万円超を借りた。
日本人にとっての同額よりも大金だが、「がんばれって快く貸してくれました。ベトナムでは助け合いは当たり前ですから」とホイさんは笑う。
現在、来店者は平日で数十人、休日は2、300人ほど。ホイさんは日本に長くいる先輩としてしばしば、お客さんから生活や仕事の悩みの相談も受けるようにもなった。
「開店時は思ってもいませんでしたが、お客さん同士が仲良くなる場所にもなってきました」とホイさん。時にはパーティーなども企画し、交流を促している。
今は、9月13日に仙台に開店したばかりの2号店の運営と、盛岡への出店計画で大忙しのホイさん。今は少ない日本人客にも「いつかはベトナム料理教室を開くなどして、交流したい」と思いをはせている。
昨年10月末時点の厚労省岩手労働局のまとめでは、企業などに雇用される岩手県内の外国人は7866人で、2015年の2822人から2.8倍に急増した。半数以上が製造業に携わる。
国籍別では、最多がベトナムの2345人(29.8%)。次いでインドネシアの1276人(16.2%)、フィリピンの1228人(15.6%)と続く。ベトナムでは円安などで出稼ぎ先として「日本離れ」が進んでいるとされ、前年比では3%の微増。入れ替わるように、インドネシアが前年比45.2%増だった。
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