韓国政府が管理するデータセンターの火災事故により一時公的機関の業務なども停止した(9月29日、ソウル市内)=聯合

【ソウル=小林恵理香】韓国で9月26日、政府が管理するデータセンターで火災が発生し、一部の行政サービスなどでシステム障害が発生した。火災発生から2週間ほどたつ今も復旧作業に追われる状態で、バックアップ態勢の不備など「デジタル政府」の看板に傷がつく事態となった。

火災が発生したのは韓国中部・大田(テジョン)にある国家情報資源管理院の施設。韓国メディアによると、サーバーが置かれている電算室でリチウムイオンバッテリーを交換するために取り外した際、電池から火花が発生したのが原因とされている。

韓国政府は火災の影響で709の政府系システムが中断したと発表した。一時は日本のマイナンバーにあたる住民登録システムなどが使えなくなり、金融や郵便、医療、災害情報システムなど日常生活に直結するサービスにも支障が及んだ。

韓国は現在、日本の旧盆にあたる大型連休「秋夕(チュソク)」で企業や学校は休みに入っている。行政の空白を最小限に抑えるため、政府は連休中の復旧に向け作業を急ぐものの、9日時点でのシステム復旧率は27%にとどまる。

韓国メディアは「バッテリー一つで崩れたデジタル政府」などと政府の対応に不満を示す。韓国・大手紙の中央日報は3日の社説で「今回の事態をきっかけに情報インフラ管理体系を見直す必要がある」と指摘した。

最も問題視されているのは災害発生時を想定した態勢の不備だ。

災害による大規模なシステム障害は今回が初めてではない。2022年10月、ソウル近郊のデータセンターで火災が発生した影響で、ネット大手「カカオ」が提供するアプリで大規模な通信障害が発生した。

政府はこの際、カカオに対して現在使用しているサーバー、クラウドと同じ環境を備えたシステムを外部に置き、火災など災害が発生した時に直ちに同じ機能を遂行できるようにシステムを「二重化」するよう指導していた。

韓国の人口の9割以上が利用する国民的対話アプリ「カカオトーク」や決済、配車サービスなどが同時に使えなくなったことで、災害などによるデジタルサービスの脆弱性が指摘されていた。

22年の事故発生時に民間企業に指導したはずの緊急事態に備えたシステムが、実は政府施設では整っていなかった。今回の火災事故で明らかになったのはこの点だ。データセンターの建物が古くなったり、バッテリーの使用年限が超過していたりといった管理面にも不備があったとされる。

バックアップを重要度の高い一部のデータに限定していた対応にも批判があがっている。政府職員には業務資料を個人端末ではなくクラウドストレージ上に保存するよう推奨してきたが、バックアップが存在せず、今回の火災によりデータが消滅した。

韓国メディアによると政府のクラウドストレージは職員全体の17%にあたる74省庁の12万5000人が利用しており、失ったデータは8年分の業務資料858テラバイト(TB)にのぼる。

特に被害が大きいとされるのが政府内の人事を担う「人事革新処」だ。職員全員がクラウドを利用していたため、職員が業務端末やメールの記録から資料を探して復元を試みている状態だという。

今回の火災によるシステム障害や政府資料の損失は与野党の論争の火種にもなっている。与党・共に民主党は22年に発生したカカオのデータセンターでの火災以降、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権で対策を怠ってきたのではないかと主張する。

野党は政府の対応が後手だと声を強める。野党・国民の力の所属議員は3日、自身のSNSで「国民に被害が続出している時に、大統領は2日間にわたり会議を主宰することも、火災現場を訪問することもなく沈黙していた」と投稿した。

大統領府は事実誤認だと反論している。李在明(イ・ジェミョン)大統領も7日、自身のSNSで「時には後ろ指をさされ誤解を受けても、国民の暮らしに役に立てることができればなんでもいとわないという覚悟で臨んでいる」と記した。

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