世界各地の18歳から35歳の若者2000人が集結して様々な社会課題について議論するサミット「One Young World Summit」。
その規模から「ヤングダボス会議」とも呼ばれています。

3日にオープニングセレモニーが行われましたが、2026年のテーマの1つに「アンチヘイト」=「ヘイトと戦う」というテーマがあります。

実はドイツでも移民や難民の受け入れを巡って、社会の分断やヘイトが深刻化している現状があります。

サミットの開幕を前に、ドイツの人々の思い・現状を宮司愛海キャスターが現地で取材しました。

東西冷戦の象徴だったドイツ・ベルリンの壁の崩壊から35年余り。
同じドイツ国内のミュンヘンには、新たな分断の象徴ともいえる別の壁がありました。

ベルリンの壁よりも高いという「ミュンヘンの壁」。
この壁は、周辺の住宅と難民を収容するための施設を隔てています。

建設間もないころは、地域の景観になじまず違和感が際立っていたこの壁。
今では、昔からここに存在していたかのように草木に覆われています。

周辺住民:
(2016年当時)ここのすぐそばに住む人たちは、新しく来る難民の騒音がひどくなると思い、壁を作るよう市に圧力をかけたのです。

ドイツ社会に暗い影を落とす難民の問題。

取材班が訪れたレストランで、ミュンヘン名物の地ビールを片手に語らう人々の話を聞いてみると、男性が「ミュンヘンでは2019年以降、小学校の新入生のうちドイツ語を母国語として話す人は半分にも及びません。1人の教師が3つや4つの言語など話せません。これは大きな問題です」と話しています。
集まっていたのは極右政党・AfD(ドイツのための選択肢)の地方議員とその支持者たちです。

AfDは、46歳のアリス・ワイデル共同党首のもと、「再移住」と名付けるドイツに来た難民らを送り返す政策などを掲げ、2025年の総選挙で第2党まで躍進しました。

AfD所属 マルクス・ワルブルン地方議員:
私たちは新たなナチスであるかのように言われます。これはばかげています。

難民を受け入れるかどうかを巡り、ドイツで今起きている分断。
こうした分断が進んだ1つのきっかけは2015年にありました。

このころ急増していたシリアからの難民について、他のEU(ヨーロッパ連合)諸国などが受け入れを拒む中、当時のメルケル首相が受け入れを表明したのです。

すると、大量の難民が流入したことで、治安や景気が悪化したと感じるドイツ国民が増加。
ハンガリーやオーストリアなどを経由してくる難民の玄関口となるミュンヘンは、難民の流入が続くことで様々な変化が起きています。

ミュンヘン市の中心部から少し離れたところにある、難民が一時的に居住できる施設。
この施設は、もともとはホテルとして使われていて、2024年の5月から利用されているということです。

難民によるものと思われる事件も複数発生。

ミュンヘンでは2025年2月、群衆に車が猛スピードで突っ込む事件が起き、アフガニスタン出身の難民申請者が拘束されました。

自身が10年前にシリアから難民としてやってきたという人は「街の景観をぶち壊してしまうような人たちがいることは認めます」と話しました。

難民を巡る分断、そして極右政党・AfDの支持が広がる中、そうした動きに反対を表明する人々の活動も注目されています。

街中で白い傘を広げる人々。
「右派に反対するおばあちゃん」を名乗り、若い世代に訴えたいと話します。

「右派に反対するおばあちゃん」エリザベート・レドラーさん(76):
強い極右化をとても危惧しています。私の孫(世代)が、いい環境で、いい未来のある人生を送ってほしいのです。

ミュンヘンの若者たちにも現在の分断について話を聞いてみました。

大学生は「ドイツだけではなく、世界全体が怖い状況だと思います」「私は楽観的でいたいと思っています。他にできることもないですし。希望を持つしかないですよね」などと話しました。

宮司愛海キャスター:
ミュンヘンで取材をしていると、今の政治状況は「なかなか楽観視できるものではない」といった方の声も多く聞かれましたし、そして、分断が進んでいるのだと感じました。一方でAfDについてはあまり語りたくないという人の数も多かったように思います。

青井実キャスター:
今回取材を続けている中で印象に残った話などありますか?

宮司愛海キャスター:
10年前にシリアから難民として来た25歳の男性が、難民の立場から見ても「入国管理を厳しくし不正入国の人は取り締まったほうがいい」「AfDの支持はしないが政策については納得するところも大いにある」と話していたことが印象的でした。ドイツの国内では経済や治安の悪化が移民や難民のせいであると主張する人と、一方で、ドイツはこれまでいろんな人と共生してきたんだから、非人道的なことはしてはいけないんだと主張する人たちの間に隔たりがあると感じました。そんな中で街で出会った女子大学生が「様々な問題に対し、こうすれば解決できると簡単に言ってしまう現状がある。そこにひかれてしまう。しかし、実際はもっと複雑なんだからじっくりと向き合っていかなければならない」ということを話しているのを聞いて、分断が深まる前に、溝が深まる前に、しっかりとお互いに理解し合う姿勢をみせることが重要だと感じました。

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