【ソウル=小林恵理香】韓国で2024年に婚姻届を提出した新婚夫婦のうち、2割が婚姻届の提出を1年以上延期していたことが明らかになった。未婚の方が融資や税制で優遇を受けられることから意図的に婚姻届を出さない「偽装未婚」状態だとの指摘があがっている。

10月の国会質疑で国家データ処(旧統計庁)が提出したデータによって判明した。24年に結婚した夫婦のうち、婚姻届の提出を1年以上延期していたケースが19%、2年以上延期していたケースも9%に上ったという。

旧統計庁の「2024年出生統計」によると、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた婚外子はおよそ1万4000人で、全出生児の5.8%に達する。5%を超えたのは今回が初めて。韓国メディアは婚姻届の提出を延期する傾向も影響したとみる。

韓国には結婚によって各種制度で未婚時よりも不利になることを「結婚ペナルティー」とやゆする言葉が存在する。その代表的な例として挙げられるのが住宅ローンの借入限度額の縮小や、マンション購入の抽選への応募規制など住宅に関する制度だ。

政府系金融機関、韓国住宅金融公社の場合、単身なら年収6000万ウォン(約630万円)以下の人に2億ウォン(約2110万円)まで貸し出す。夫婦の場合は世帯収入で8500万ウォン(約900万円)以下を基準とする。

韓国には政府や公共機関が分譲する住宅「公共分譲」という制度がある。分譲価格が周辺地域の相場よりも安い傾向があり、人気が高い。分譲の抽選には未婚の場合はそれぞれが応募できるが、婚姻届を出すと1世帯で1回までに制限される。

結婚前に夫婦のどちらかが住宅を所有していた場合、結婚後に新しくマンションを購入すると1世帯で2軒目の住宅となるため、不動産取得税で重い税率が適用されることも影響している可能性がある。

韓国国内での不動産価格の高騰は顕著だ。韓国のKB国民銀行が9月に実施した調査によると中古を含むソウルのマンションの平均売買価格は14億3621万ウォン(約1億5200万円)で過去最高価格を更新している。人気地域の江南などでは20億ウォンを超える物件も少なくない。

経済協力開発機構(OECD)によると2024年基準で韓国の平均給与は5万947ドル(約790万円)だった。韓国の国土交通省は23年の「住宅実態調査」でソウルで家を持つ場合、年収を全て住宅購入に回したとしても15年かかるとの結果を公表した。

李在明(イ・ジェミョン)大統領は10月の閣議で「韓国は国民所得に比べて不動産価格が国際的にも最も高い水準にあり、いずれ必ず深刻な事態が起きる」との認識を示した。高騰を続ける不動産価格に歯止めをかけるため、韓国政府は対策に乗り出した。

融資や分譲申し込みの資格審査の厳格化に加え、首都圏と一部指定地域でマンションを購入する際の融資限度額を定めた。最大の目的は投機的な取引を抑制することにあったが、若年層にとっては住宅購入のために必要な自己資金が増えることにもなったとの指摘もある。

韓国国会の国政監査で質疑した与党・共に民主党の鄭日永(チョン・イルヨン)議員は婚姻届の提出を延期する現象について「青年世代の現実的な困難をそのまま示している」と強調する。「結婚が不利益ではなく選択になるよう制度を全面的に再設計しなければならない」と主張する。

韓国の韓半島未来人口研究院の李仁実(イ・インシル)院長は「韓国の場合は婚姻届と出生児数の相関関係が強いため、婚姻届を先送りすることは少子化対策の妨げになる」と話す。

不動産購入のため夫婦の実態を偽る動きは韓国だけではない。住宅バブルがはじける前の中国でも同様の傾向がみられた。

戸籍や世帯に応じてマンションを何戸まで買えるかという規制が都市ごとにあり、上海など大都市では住宅の値上がり益を見込んだ夫婦が見せかけの離婚により世帯を分けることで購入制限の規制をかいくぐる動きが広がっていた。

中国では偽装離婚による住宅取得を禁じるため、離婚した人の購入を一定期間規制する措置を講じる地方政府もあった。

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