汚職事件で政権基盤が揺さぶられるウクライナのゼレンスキー大統領(16日、アテネでの会見)=ロイター

戦時下のウクライナで国営企業の発注にからむ大規模な汚職事件が浮上した。ゼレンスキー政権は深刻な汚職問題を根絶するため、抜本的な対策を講じるべきだ。

ウクライナの政府高官の汚職犯罪に特化して捜査を行う国家汚職対策局(NABU)などが、国営原子力会社エネルゴアトムを巡る捜査を始めた。下請け業者との契約でキックバックをさせて資金を洗浄した疑いで、ゼレンスキー大統領の旧友の実業家や政府高官らが捜査対象になった。

その規模は1億ドル(約155億円)にのぼり、この実業家は捜査直前に国外に逃れた。現政権で最悪の汚職事件となった。

ゼレンスキー氏はエネルギー相ら2閣僚に辞表を出させて国営企業の改革も表明したが、不十分だ。徹底的な捜査による全容の解明と責任の追及が欠かせない。

ゼレンスキー政権は7月、NABUの独立性を損なう法律を一時成立させた。国の内外から批判され、事実上の撤回に追い込まれた。今回の汚職事件との関連も疑われ、大統領自身の信任も揺らぐ。

何よりもロシアによる侵略で甚大な損害と厳しい生活に苦しむ国民への背信行為であり、今後の和平交渉への影響も心配だ。

国際社会の視線も厳しく、ドイツのメルツ首相らが懸念を示した。ウクライナは戦費や経済基盤の再建など外国から多額の資金を必要とする。欧米や日本などは支援を堅持すべきだが、はびこる汚職に不安を覚えざるをえない。

ウクライナが国家目標とする欧州連合(EU)への加盟交渉にも悪影響を与える恐れがある。公正な取引や法の支配が保証されなければ、早期加盟の道は遠のく。

ウクライナの汚職はソ連時代から問題となってきた。公共部門の汚職を調査する非政府組織(NGO)のトランスペアレンシー・インターナショナルによると、2024年の同国の腐敗度は国別で105位で、アルジェリアなどとほぼ変わらない。国の将来をかけて汚職対策に取り組んでほしい。

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