トランプ米大統領は16日、ベネズエラに出入港する制裁対象の石油タンカーに対し、「完全かつ徹底的な封鎖」を命じた。自身のSNSで明らかにした。マドゥロ政権の生命線である石油の輸送路を標的にして、一段と圧力を強める姿勢を示した。

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 トランプ氏は、米国が2019年以来、正統性を認めていないマドゥロ政権そのものを麻薬密輸に関与しているなどの理由で「外国テロ組織」に指定した、とも述べた。米政権は麻薬対策を掲げて中南米沖に大規模な軍事展開を進め、10日にはベネズエラ沖でタンカーを拿捕(だほ)したばかりだ。異例の「封鎖」が実施されることになればベネズエラ経済にさらなる打撃を与えるのは確実なうえ、トランプ氏はベネズエラへの地上攻撃の可能性も示唆している。

 16日のSNSへの投稿では、ベネズエラが近海に展開する米海軍によって「完全に包囲されている」と主張。「彼らが米国から盗んだ石油や土地、その他の資産の全てを返すまで、大艦隊はさらに規模を増し、かつてないほどの衝撃をもたらすことになる」と続けた。「盗んだ」との主張は、ベネズエラの国営石油会社により失われた米企業の権益などを指すものとみられる。

 これに対しマドゥロ政権は16日、「国際法や自由貿易、航行の自由への侵害だ」と非難する声明を出した。「我が国の富を奪う目的で、全く理不尽な方法で封鎖を強行しようとしている」と述べ、トランプ氏の発言を「植民地主義的」だと批判した。

「封鎖」なら国際法違反か 例外的措置も

 ベネズエラは世界最大規模の原油埋蔵量を誇る。この資金源を断つ狙いから、トランプ氏は第1次政権の時から、ベネズエラの国営石油会社や中央銀行などを制裁対象としてきた。ロイター通信などによると、それでもベネズエラはロシアなどの支援を受けて原油生産を続け、中国などに輸出されている。米国も一定の海上輸送を黙認してきた面があり、第2次トランプ政権も米石油大手シェブロンに対し、例外的にベネズエラでの操業を認めた。

 一方、米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、シェブロンは16日、「ベネズエラでの操業は法令に従い、混乱なく続けられている」と明らかにしたという。トランプ氏の言う「封鎖」がどの程度の規模になるのかは明確ではない。仮に戦時に実施されるような封鎖を意図していれば、武力による威嚇を禁じた国連憲章など国際法違反に当たる可能性もある。

 米ニューヨーク大法科大学院のライアン・グッドマン教授はX(旧ツイッター)で、「『封鎖』は、武力攻撃を受けたことへの(防衛的な)対応でなければ、侵略の罪に該当する」と指摘。「トランプ大統領の主張は何ら武力攻撃の証拠を示していない」と述べた。

船舶攻撃で90人超殺害、米国内でも批判

 米政権は麻薬対策の名目でベネズエラなどからの船舶に対する空爆も重ねており、これについても、国際法違反との見方が強い。AP通信によると、計8人を殺害した直近の15日の攻撃を含め、9月以降、25回の船舶への攻撃で少なくとも95人の乗組員を殺害した。マドゥロ政権を転覆させることに主眼があるとの指摘も根強い。実際、米政権のワイルズ首席補佐官は16日に報じられた米誌バニティ・フェアのインタビューで、トランプ氏が船舶への攻撃を「マドゥロが降参するまで続ける」意向だと語った。

 米政権の対ベネズエラ政策については米議会からの反発も強まっている。米下院外交委員会の民主党トップ、ミークス議員は16日、ルビオ国務長官やヘグセス国防長官からこの日に受けた説明が不十分だったと不満を表明。声明で「(船舶への)攻撃が麻薬を止めるためではないことは明らかだ。政権はベネズエラの体制転換のための戦争を始め、石油の利権を得ることを狙っていることを明確にしつつある」と指摘した。

 一方、「米国第一」を掲げるトランプ氏の中核的支持層にも、過度な対外介入を避けるべきだとの意見は根強い。トランプ氏はこうした世論動向も見極めつつ、地上攻撃を含めた今後の対応を検討するとみられる。

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