
トランプ米政権がベネズエラのマドゥロ政権に圧力を強めている。麻薬対策を理由にした「密輸船」への攻撃や、海上封鎖など強硬策が相次ぐ。軍事力を前面に出した威嚇は危うい。
トランプ大統領は、制裁対象の石油タンカーがベネズエラに出入りするのを全面封鎖すると表明した。マドゥロ大統領は「主権と国際法、平和に対する脅威」と反発した。同国沖で米政権はタンカーを拿捕(だほ)したばかりだ。
米軍は中南米海域で麻薬密輸船とみなす船への空爆を重ねている。20回以上の攻撃で乗組員100人超が殺害された。過剰攻撃の恐れがあり、戦闘能力のない乗組員の一方的な殺害は戦争犯罪との批判が強い。
米政権は麻薬カルテルと「戦争状態」にあるとみなして攻撃を正当化するが、法的根拠を明確にしなければならない。合法性を疑う声は米国内にもある。
反米左派のマドゥロ氏は独裁色を強め、3選を主張した昨年の大統領選は不正が疑われる。今年のノーベル平和賞に選ばれた野党指導者マチャド氏ら反体制派への弾圧は、決して許されない。
トランプ氏には、米国への麻薬流入を防ぐとともに、資金源の石油輸出を断ってマドゥロ氏に退陣を迫る思惑があるとみられている。埋蔵量世界一のベネズエラの石油資源が狙いとの観測もある。利権が動機なら言語道断だ。
空母や戦闘機を周辺に送ったうえ、地上作戦の可能性にまで言及したのは、力を弄ぶ軽率な振る舞いというほかない。法を逸脱する過剰な武力行使は、米国の正義を傷つける。軍事力を頼みに法の支配を軽んじる他国と同列に身を落とすことになりかねない。
トランプ氏は国家安全保障戦略で、中南米を中心とした「西半球」重視を鮮明にした。マドゥロ氏は米国の圧力を受けてロシアや中国に一段と接近し、両国は支持を新たにした。中南米を大国間対立の火種にしてはいけない。緊張の緩和を急ぐべきだ。
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