
トランプ米政権が南米ベネズエラへの大規模な攻撃に踏み切り、マドゥロ大統領を拘束した。米国への麻薬流入を食い止めるためと主張するが、国際法上の正当性を欠く疑いが強い。法の支配を損ない、国際秩序の瓦解を助長しかねない今回の軍事行動を非難する。
20カ所の米軍拠点から150機超の爆撃機や偵察機を投入し、防空システムを破壊したうえで特殊部隊がマドゥロ氏の邸宅に突入した。同氏を妻とともにニューヨークの拘置所に移送した。
トランプ政権はこれまでもマドゥロ政権の資金源である石油タンカーを拿捕(だほ)したり、中南米の海域で密輸船とみなした船を攻撃したりしてきた。後者は過剰攻撃との批判を招いている。まして国連決議もなく、他国の領土で実行した今回の軍事作戦は主権侵害のそしりを免れない。
こうした手法がまかり通れば、台湾を威圧する中国やウクライナ侵略を続けるロシアの横暴を認めることになりかねない。トランプ氏が記者会見で、世界最大の埋蔵量を誇るベネズエラの石油利権への野心を隠さなかったのも大国の身勝手というほかない。
反米左派のマドゥロ氏の独裁的な政権運営に問題があったのは確かだ。2024年大統領選での「3選」は不正の疑いが大きい。反体制派への弾圧も目に余る。だからといって米国の武力行使を正当化することにはならない。
政権移行にも不安がある。トランプ氏はベネズエラを「我々が運営する」と述べ、当面の国家運営を米国が担うと説明した。国家再建に失敗したアフガニスタンやイラクの教訓を忘れたのだろうか。同氏が再びイランへの介入を示唆しているのも気がかりだ。
米国は裏庭とみなす中南米諸国への軍事介入を繰り返してきた歴史がある。今回も独裁政権の排除を目的としたブッシュ政権(第41代)による1989年末のパナマ侵攻になぞらえる向きがある。
ただ、冷戦終結にあわせて自由な国際秩序を主導しようとしていた当時と異なり、いまの米国にそのような意思は見られない。この点は留意した方がよい。
英国やフランスなど欧州の西側諸国にはマドゥロ氏の拘束を前向きに評価する声があるが、軍事行動への批判も出ている。世界の安定に逆行する動きを強める米国とどう向き合っていくのか。同じ難題を日本も突きつけられている。
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