10万種超!世界で人気のボードゲーム

「ふだん、将棋担当しているでしょ。だからボードゲーム担当でもあるよね」
400以上のボードゲームを持っているという上司の趣味に付き合わされるような形で、急きょボードゲームについて調べることになった私。
これまで、将棋以外にボードゲームといって思い浮かぶものといえば「人生ゲーム」や「モノポリー」くらいでした。
こうしたゲームは国内での知名度も高いですし、小学校のころに友達と一緒にやったとか、お正月に家族で集まってやったという人も多いかも知れません。
ただ、調べていくと世界中にはもっとたくさんのボードゲームがあるとわかり、驚きました。
例えば、「ボードゲームギーク」という世界中のあらゆるボードゲームやカードゲームを登録、紹介している海外のウェブサイトを見ると…。
「アーク・ノヴァ」に「テラフォーミング・マーズ」、「グレート・ウエスタン・トレイル」などなど。

聞いたことがないけれど、おもしろそうなボードゲームが次々と。
私が調べてみた範囲では、なんと10万を超える数のゲームが掲載されています。
一生かかってもやりきれない…。
さらに日本でも「ボドゲーマ」という同じようなウェブサイトがあり、こちらには3万種類以上が登録されています。
通販サイトで「ボードゲーム」と検索すればたくさんのゲームが出てきます。
そう、海外でも日本でもいま、ボードゲームがブームになっていて、次々と新しい作品が生まれ、多くの人に遊ばれているんです。
そうした中、今回、「ドイツ年間ゲーム大賞」という、ボードゲームで最も権威があるとされる賞に、日本人の作品がノミネートされたのです。
ボードゲーム“世界最高峰の賞”ドイツ年間ゲーム大賞
なぜドイツの賞なのか。
実はドイツは世界的に見ても、ボードゲームが盛んな国。
家族でボードゲームをするという文化がしっかりと根づいていると言います。
そのドイツで、1年間で最もすぐれたゲームに贈られるのが、「ドイツ年間ゲーム大賞」です。

1979年から始まった40年以上の歴史がある賞で、ボードゲームの文化を普及させようと、評論家などがドイツ語圏で発売されたゲームから毎年選びます。
世界中のボードゲームの愛好者から注目されていて、ボードゲームのデザイナーであればみんながこの賞を目指すというような賞だといいます。
現在は「大賞」、玄人向けの「エキスパート大賞」、そして子ども向けの「キッズ大賞」という3つの部門に分かれています。
このうち大賞には「カタン」や「カルカソンヌ」、「ドミニオン」といった、世界中でヒットし、広く遊ばれているゲームが選ばれてきました。
この賞、実はこれまでにも、日本人がデザインしたゲームが大賞にノミネートされたことがあるんです。
2015年には、街を発展させてランドマークを完成させる「街コロ」が、2022年には手札をスカウトして強くしながら先にあがることを目指すカードゲーム「SCOUT」がノミネート。
しかし、どちらも受賞はしていません。
そして今回、2025年にノミネートされたのが、林尚志さんが制作した「ボムバスターズ」です。

そして、日本人の作品が初受賞の快挙
果たして受賞はなるのか。
発表を前に、受賞を想定してすでに「ボムバスターズ」を購入していたという上司からゲームを手渡され、接写室での撮影にのぞみました。
当日、受賞したときのニュースに使うための映像です。
「今回、受賞しそう」という上司の発言がいまいち信じ切れない私ではありましたが、ゲームの中身を並べてみるとおもしろそうで次第に期待も高まってきました。
受賞の予定原稿も作り、準備万端。
授賞式をインターネットで見守ることになりました。
そして、日本時間の7月14日午前1時すぎ…。

「ボムバスターズ!」
作品の名前が読み上げられた瞬間、「おお!」と思わず声を上げてしまいました。
「毎週僕の家に来てテストプレイをしてくれる仲間と最愛の妻に感謝を伝えたい」
授賞式でそう語る林さんの笑顔を見て胸が熱くなりました。
「ボムバスターズ」やってみた!
今回大賞を受賞した「ボムバスターズ」。
いったいどんなゲームなのでしょうか。
その設定は、プレイヤーたちが爆弾を処理する専門チームの一員となり、爆弾を解除するというもの。
プレイヤーどうしは互いに勝ち負けを競うのではありません。
協力して全員が勝利するのを目指すというのがポイントです。

今回、私も伊藤海彦アナウンサーと池田伸子アナウンサー、瀬戸光アナウンサーとともに、実際に遊んでみました。
NHKプラスで配信中

しかし、異なる2つの数字を選んでしまうと失敗!複数回間違えると、爆弾が爆発してしまいゲームに敗北します。

さらに、「ババ」にあたる赤いコードのタイルを選んでしまうと、それだけで爆発、負けとなります。
赤いコード以外をすべて選び、各プレーヤーがタイルを出し切ればミッション成功、クリアとなります。
ボードゲームにそこまで親しんでいない私たち4人。
盛り上がらなかったらどうしよう…。
そもそもルールが難しいのではないか…。
不安もありましたが、いざ初めてみるとルールもシンプルで遊びやすい。

「これは10ですね…」
「…違います!!」
初回はルールが把握しきれていないこともあり、主に私の凡プレーが続き、ミッション成功ならず。
ただ、2回目にはみんなコツも分かってきて楽しみが倍増、テンポも良くなりました。
そして、無事にクリアとなったときは、全員から歓声が上がりました。

あえて、この数字を切断したことにはどういう意味があるのかなど、自身の1つ1つの選択が、ほかのプレイヤーにヒントを与えることにつながります。
一方で、余裕がなく自分のことしか考えないプレーになってしまうことも。
単純なルールの中にも奥深さがあります。
また、行き詰まったときにプレイヤーを助けてくれる「アイテム」という存在があるのも、盛り上がるスパイスになっていました。
ゲームのあとの感想戦も盛り上がり、誰かが勝つというわけではなく、みんなで協力するというゲームだからこそ、お互いのことを考え、コミュニケーションの度合いも深まるというのも新鮮で、達成感がありました。
協力ゲームがトレンドに
この「ボムバスターズ」。
世界で評価されたのにはどのような理由があるのでしょうか。
それは「協力ゲーム」だという点がポイントの1つになると、専門家は指摘します。
長年にわたって海外のボードゲームを国内に紹介してきた安田均さんによると、協力ゲームはいま、ボードゲームの中でも1つのトレンドになっているといいます。
2000年代に生まれた「協力ゲーム」の広く知られるきっかけとなったのが、2008年に発売された「パンデミック」というゲーム。

感染症の世界的な流行、パンデミックを防ぐために医師や科学者などが世界中を奔走。
プレイヤーどうしが協力して治療薬の開発や感染を抑えるという内容です。
その後、協力ゲームがたくさん作られるようになり、ドイツ年間ゲーム大賞でも、3年連続で協力ゲームの受賞が続いています。
みんなで美しい村の風景を作りあげていく2023年の「ドーフロマンティック」。
機長と副操縦士が協力して安全に空港に着陸することを目指す2024年の「スカイチーム」。
そして今回の「ボムバスターズ」です。
安田さんは、評価の理由について次のように話しています。

ボードゲームに詳しい安田均さん
「それまで対戦型のゲームが主流だった中、21世紀に入って生まれた協力ゲームというジャンルは、20年の時を経てパズルや謎解きゲームと合わさって進化してきました。その中でも、『ボムバスターズ』は、ミッションがたくさん用意されているなど、さまざまなおもしろい要素が組み合わさっていて、協力ゲームの最先端にあたる作品だと評価できます」
受賞の背景に日本でのボードゲームブーム
そのうえで、安田さんは、今回の受賞はたまたま起きたことではなく、ボードゲームがこの10年ほどで着実に日本に根づいてきたことが背景にあると指摘します。
その1つが、ボードゲームが遊べる「ボードゲームカフェ」の増加です。

2010年ごろから都市部を中心に各地でオープンしはじめ、いまでは全国の都道府県にまで広がりました。
それまでのゲームファンは貸し会議室や公民館などで集まって遊んでいたのが、気軽に訪れ、カジュアルにゲームで遊べる環境が広がっていきました。
これに伴い、国内でのボードゲームの出版数も増えていて、アナログゲームミュージアムと矢野経済研究所の調査によると、国内でボードゲームが出版された数は2013年の78点から2023年の234点と、3倍になりました。
さらに国内最大のアナログゲームのイベント、「ゲームマーケット」では、初開催の2000年の参加者は400人でしたが、ことし春は2日間で2万7000人が参加していて、ボードゲームファンも大幅に増加したことがわかります。
出展数も初開催の2000年からどんどん増えていて、ボードゲームを楽しむ側だけでなく、ボードゲームを作る側も増えていることがうかがえます。
ボードゲームに詳しい安田均さん
「ボードゲームをしたいと思っていたとしても、どこで売っているのか、誰と遊ぶのか、どこで遊ぶのかが、ネックとなっていました。SNSの登場でボードゲームの情報も手に入りやすくなったほか、ネット通販も発達してボードゲーム自体も手に入りやすくなったのは大きいですね。そしてボードゲームカフェによって、場所の問題が解決されたことは世間にボードゲームが根づいたことに、大きく影響を与えたと考えられます。そうした中で、ボードゲームを作りたいと思う人も増えましたし、印刷技術の発達などによって、個人でも作ることができるようになったことが、背景にあると考えられます」
ゲームデザイナー林尚志さんとは
こうした中で快挙を成し遂げた「ボムバスターズ」。
制作した林尚志さんはどういった方なのでしょうか。
受賞してドイツから帰国してまもないタイミングで林さんに、行きつけだというボードゲームショップで話を聞くことができました。

林さんは愛知県知立市出身の49歳。
現在は横浜を拠点にゲーム制作に取り組んでいます。
幼いころからチラシの裏に、迷路やすごろくを書いていたという林さんが、ゲームを作り始めたのは19歳。
大学在学中のころでした。
その当時から、ドイツ年間ゲーム大賞に憧れる気持ちがあったといいます。

大学院を卒業後、大手テレビゲーム会社のエンジニアとして働いていましたが、実際に対面で遊べるボードゲームの魅力に引かれ、休日になると自分でボードゲームを制作する日々でした。

11年前に鉄道をテーマにしたボードゲームがアメリカの賞を受賞し、注目を浴びたことが転機となり、ゲームデザイナーとして独立。
その後、毎年4個から6個という驚異的なスピードでゲームを制作し、着実にキャリアを積みあげていきました。
そんな林さんにとって、ドイツ年間ゲーム大賞は30年来の夢でした。

林尚志 さん
「ドイツ年間ゲーム大賞はボードゲームデザイナーとして登りつめる頂というか、人生をかけて目指すべきものでしたね。もう本当に人生の半分ぐらいはボードゲームにささげてたのかなと思います。ボードゲームはやっぱり、実際に物理的にゲームに触れながら、みんなで会話しながらできるところが楽しいし、魅力です」
コロナ禍をこえて生まれたボードゲーム
作品を生み出すごとに、ゲームデザイナーとしての実力を高めてきた林さんですが、苦難もありました。
2020年ごろからの「コロナ禍」です。
ボードゲームカフェなどの人々が集まってゲームを楽しむ場が軒並みなくなり、ゲーム自体の需要も低下。
林さんも仕事が激減してしまいました。
そうした逆境の中で、生まれたのが「ボムバスターズ」でした。

ボムバスターズの魅力の1つに回を重ねるごとに少しずつルールが追加されていく60余りのミッションがあり、それが長く飽きさせない工夫となっています。
仕事が少なくなり、制作に時間をかけられるようになったことで、多彩なミッションを作り込むことができたのです。
開発中のゲームは、オンラインを駆使して、友人に何度もプレイしてもらいながら、完成させていきました。
友人たちからの反応がよかったことから、林さんも大きな手応えを感じていたそうです。
ボードゲーム文化をさらなる発展へ
そんな林さん、次はドイツ年間ゲーム大賞のうち、今回受賞した部門とは別の部門の、「エキスパート大賞」を狙いたいと、2冠への意欲を見せていました。

林尚志 さん
「ゲーム作りの楽しさは全く何も無いところから、ゲームとしての姿が見えてくる工程が楽しいです。とにかく自分が作って楽しいゲームを作ろうとか、自分が思いついたアイデアを実現するために作ろうという思いが強いんです。大賞を取れたことはうれしいですけど、今後ともボードゲームを続けて作っていくと思いますんで皆さんもぜひ遊んでいただければと思います」
林さん個人にとっても大きな出来事となった今回の受賞、日本のボードゲーム界にとっても、非常に大きな意味を持つ受賞だったと安田さんは指摘します。
ボードゲームに詳しい安田均さん
「これまでボードゲームに関しては、日本は世界に遅れを取っていましたが、ついに林さんが快挙を成し遂げました。これをきっかけに、日本でもっとおもしろいゲームが作られるようになると思いますし、今後も世界から注目を集めるゲームデザイナーが現れるのではないかと注目しています」
ボードゲーム文化が国内でも根づいてきたとはいえ、まだまだ一部のファンが楽しんでいるというような状況にはあります。
今回の受賞で、今までボードゲームに触れてこなかった人たちが「遊んでみたい!」と思うようになり、裾野が広がる1つのきっかけとなればよいと思います。
8月27日 ニュース―ンなどで放送
配信期限 :9月3日(水) 午後5:00 まで
小田和正
2014年入局
金沢局、鹿児島局、神戸局を経て科学・文化部
映画や将棋の取材を担当
1番好きなボードゲームは「ガイスター」
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