モディ首相の日本訪問はおととしのG7広島サミット以来で、首脳どうしの相互訪問としては7年ぶりとなります。

総理大臣官邸で行われる首脳会談で石破総理大臣は、14億人余りと世界で最も人口が多く、市場の拡大が見込まれるインドの活力を日本の成長に取り込みたいとして幅広い分野での協力強化を確認したい考えです。

具体的には半導体や重要鉱物、AI、医薬品といった分野での協力を強化するため「経済安全保障協力イニシアチブ」という新たな枠組みの創設で合意する見通しです。

安全保障分野では2008年に署名した「共同宣言」を改定し、防衛協力の具体策を盛り込む方向で調整しています。

経済分野ではインドに対し今後10年を念頭に10兆円の民間投資を行う新たな目標を打ち出すほか、インドから日本への人材5万人を含め、今後5年間に双方向で50万人以上の交流を目指すことでも一致するものとみられます。

そして、会談の成果としての共同声明や、環境、医療、地方自治体の交流などの分野で今後10年の具体的な方向性を示す「共同ビジョン」など、あわせて11の成果文書がとりまとめられる見通しです。

インドの高速鉄道計画とは

今回のモディ首相の訪日では、日本の協力のもと、インドで整備が進む高速鉄道についても話し合われる見通しです。

経済成長が続くインドのモディ政権は、インフラ整備の一環として、西部にある最大の商業都市ムンバイと工業都市アーメダバードの間のおよそ500キロを結ぶ国内初の高速鉄道の整備を進めています。

日本が官民を挙げて売り込みを行い、2015年に当時の安倍総理大臣とモディ首相が日本の新幹線技術を導入することで合意しました。

当初は2023年の開業を目指していましたが、用地の取得が難航したほか、新型コロナウイルスの影響で計画が遅れ、インド政府は2029年中の完成を見据え、現地では駅舎や高架橋などの建設が進んでいます。

高速鉄道が通る区間は在来線を利用すると5時間以上かかりますが、新幹線技術の導入でおよそ2時間に短縮される見込みで、アーメダバードでは期待の声が聞かれました。

これまで仕事で在来線を利用してムンバイまで行っていたという男性は「高速鉄道が運行されれば、時間を節約できるので移動が簡単になって、ビジネスの拡大にもつながる」と話していました。

また、駅の近くで飲食店を経営する男性は「高速鉄道が開業したあとは、客が2倍以上に増えてほしい。インドと日本の関係はさらによくなるでしょう」と期待をにじませていました。

高速鉄道の整備では日本が幅広い分野で支援していて、日本円で1兆8000億円に上ると見込まれている事業費のうち、これまでに1兆円余りを円借款で供与しています。

技術面や人材育成では、日本から専門家を派遣して施工のノウハウを伝えるなどしているほか、日本国内では高速鉄道の運営や運行に関わる人材の育成が行われています。

JICA=国際協力機構は3年前からインドの高速鉄道側からのべ40人余りの研修員を受け入れ、ことしからはJR東日本の指導のもと、運転士を育成する研修も行っていて、今月には新幹線を運転するなどの技能講習も始まっています。

今回のモディ首相の訪日に合わせて、JR東日本が2030年度に導入を計画している新型車両「E10系」をインドにも導入することで調整が行われていて、両国の協力がさらに深まることが期待されています。

インドをめぐる国際情勢 アメリカとの関係は

モディ首相がこの時期に訪日することはもともと決まっていたことですが、日印関係に詳しいインド人の専門家は、インドをめぐる国際情勢が激変するなか、モディ首相にとって日本との首脳外交はここにきて重要性がさらに増していると指摘しています。

というのも今、インドとアメリカの関係が悪化し、外交上の大きな難問に直面しているからです。

トランプ大統領とモディ首相は、トランプ政権の1期目のときは良好な関係で、2020年に当時のトランプ大統領がインドを訪問したときには、モディ首相から大歓迎を受けました。

トランプ大統領は、地元のスタジアムに集まった10万人を超える観衆の前で演説し、「アメリカはインドにとっていつも忠実な友人だ」と訴え、大きな歓声が上がりました。

しかし今のトランプ政権は、インドに対して関税政策で厳しい対応を続け、インドがロシアから原油や石油製品を購入していることを理由に、インドからの輸入品に課している追加関税を今月27日から50%に引き上げました。

これによってインドは経済的に大きな影響を受ける可能性もあり、関税の引き上げにモディ首相は強く反発し、対決姿勢をみせています。

こうした中で、インドとしてはさまざまな国との関わりを深めようとしているとみられ、経済面において常にインドが最優先に考える国の1つが日本ということになります。

インドをめぐる国際情勢 中国との関係は

また、今回の訪日のあと、次に訪れる国も注目されています。

モディ首相は、日本を訪れたあと、中国 天津を訪れます。インドの首相が中国を訪問するのは7年ぶりです。

そこで中国とロシアが主導する安全保障や経済協力の枠組み、上海協力機構の首脳会議に出席することになっています。

インドは中国との国境問題を抱え、緊張関係が続いてきました。しかし最近になって中国との関係改善の動きがみられます。

今月18日には中国の王毅外相がインドを訪問し、19日にモディ首相と会談。

モディ首相は「インドと中国の安定的で建設的な関係が、地域そして世界の平和と繁栄に大きく貢献する」と述べ、両国関係を強化する考えを強調しました。

対米関係が急速に悪化する中、インドとしては伝統的な全方位外交を改めて重視する姿勢を示しており、中国とも関係改善を図ろうとしているものとみられます。

「メイク・イン・インディア」 インド経済と人材

今回のモディ首相の訪日を機に、日本としては、インドの成長力を取り込むための投資を促進するとともに、両国の協力のすそ野を広げていきたいとしています。

インドの人口は14億以上。中国を抜いて世界で第1位です。

人口は増加傾向で、その需要の拡大に支えられて経済成長が続き、昨年度のGDP=国内総生産の伸び率はプラス6.5%と、高い水準を維持しています。

また、IMF=国際通貨基金が4月に公表したまとめでは、ことし、インドのGDPが日本を抜いて世界第4位となると予測されています。

モディ首相は「メイク・イン・インディア」と呼ばれる政策を掲げて外国資本を誘致し、製造業の振興や雇用の創出に取り組んでいて、今後も経済成長が見込まれています。

インドは日本にとって有望な投資先とみられ、これまでに1400社以上の日系企業が進出しています。

日本からの投資が加速している分野の一つが、自動車です。

インドは、中国とアメリカに次いで世界第3位の自動車市場です。

インド政府は脱炭素化や深刻な大気汚染への対策として、国内で販売される乗用車のうちEVの占める割合を現在のおよそ2%から2030年までに30%に高めるという計画を打ち出しています。

こうしたことから、日本の自動車メーカーは今後の需要の拡大を期待して投資を加速させています。

なかでもインドを最大の市場とする自動車メーカー「スズキ」は、ことしからインドでのEVの生産に乗り出し、今月26日、EVの出荷を始めました。

記念式典にはモディ首相も駆けつけ、「きょうからインドで製造されたEVが世界100か国に輸出されることになる」と述べ、インドと日本との経済的な連携をアピールしていました。

一方、人口が世界で最も多いインドは、その多様な人材にも期待が集まっています。

日本で暮らしているインド人は5万人以上。このうち働いている人の多くはIT関係に従事しているとされますが、日本政府はさらにすそ野をひろげ、幅広い人材を受け入れたい考えです。

なかでも今、日本企業が注目しているのが介護人材です。

日本では2040年度に介護人材がおよそ57万人、不足すると推計されています。

日本の介護大手「SOMPOケア」は去年、インドの首都ニューデリー近郊に研修施設をオープンさせました。

今後、インド人の介護人材を年間およそ60人育成する目標をたて、介護現場での日本語のやりとりや、車いすやベッドなどを使った実践的なノウハウを教えています。

研修生たちは、「特定技能」の試験に合格すれば最大5年間日本に在留できますが、介護福祉士の資格を取得すればさらに長く働くことができ、日本の介護現場を長期的に支える人材として期待されています。

今回のモディ首相の訪日を通じて、両国は経済以外にも、経済安全保障や環境、イノベーションなど幅広い分野で今後10年の協力の方向性を見いだそうとしています。

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