
石破茂首相は29日、首相官邸でインドのモディ首相と会談した。重要物資を確保する枠組み「日印経済安全保障イニシアチブ」を立ち上げた。中国に依存しない半導体のサプライチェーン(供給網)の構築をめざす。
石破首相は会談の冒頭で「日印関係をさらなる高みに引き上げるため、今後10年間の協力の方向性を発信したい」と話した。
モディ氏は「現在のような世界の情勢のなか、インドと日本のような経済大国と民主主義国家の間の相互協力は非常に重要だ」と強調した。米国とオーストラリアを含む4カ国枠組み「Quad(クアッド)」に触れ「世界平和と安定に貢献している」と述べた。

両首脳は共同声明を発表した。東シナ海と南シナ海の現状に「深刻な懸念を表明した」と明記した。力や威圧による現状変更の試みに「強い反対」を打ち出した。海洋進出を強める中国が念頭にある。
北朝鮮の核・ミサイル技術にも触れた。北朝鮮への技術流入や、北朝鮮からの拡散に対処する重要性を確認した。4月にカシミール地方のインド側支配地域で発生したテロについて「最も強い言葉で非難」すると強調した。
インドが建設中の高速鉄道路線についてJR東日本が東北新幹線用に開発中の新型車両「E10系」を導入することも確認した。
このほかにも個別の分野でそれぞれ文書を交わした。そのひとつが「安全保障協力に関する共同宣言」だ。17年ぶりに改定した。
経済安保や防衛装備の共同開発、サイバー・宇宙・人工知能(AI)といった新領域の技術管理を明記した。08年に締結した当初の内容は軍・自衛隊の共同訓練や海上保安の協力が柱だった。
今後10年間の協力を見据えた共同ビジョンもまとめた。経済やモビリティー、環境など8分野での具体的な方向性を示した。経済成長を相互に補完し合える関係の構築を目指す。

あらゆる産業や製品に欠かせない半導体は協力の軸になる。中国に依存しない供給網の構築が世界的な課題になっている。経済的、軍事的なリスクによって供給が途絶える懸念があるためだ。
今回合意した「経済安保イニシアチブ」は半導体をはじめ重要鉱物、医薬品、情報通信などを重点分野に指定する。政府間の対話にとどまらず、企業や有識者が話し合う枠組みを想定する。
石破首相は会談後の共同記者発表で、インドに10兆円の投資を目指すと表明した。「いまやインドは世界一の人口を擁し、経済成長は著しい。イノベーションで世界に変革をもたらす存在だ」と述べた。
両国の人的交流を5年間で50万人以上とする目標を掲げた。インドは工学系の学生が毎年150万人ほど卒業する。いまは言語や待遇の点で高度人材が欧米に流れている。半導体やIT(情報技術)に精通する人材を日本企業に呼び込む狙いがある。
日印がいま中長期の2国間関係の将来像を内外に示すのは不安定な国際情勢が背景にある。
インドはかねて国境を接する中国と領土問題を抱える。日米豪印のクアッドは大国間でバランスをとる外交の一環だった。
トランプ米政権が1月に発足し、こうした国際政治の構図が変化している。米国はインドに50%の関税を課した。ロシア産原油を大量購入したとの理由だ。
米印の対立が深刻になると、中国がインドに接近する。米中それぞれとの間合いに苦慮するインドにとって日本は連携する意義が大きい。基本的な価値を共有する国同士で協力する必要が強まっている。
インドは世界一の人口と高い経済成長で大きな市場を持つ。1400社を超える日本企業が進出している。日印がそれぞれの強みを活用しあう相互補完的な関係を探る。
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