
【ワシントン=三木理恵子】高市早苗首相は19日の日米首脳会談で、トランプ大統領との対中外交に関する認識の擦り合わせを試みた。米政府が発表した文書に台湾海峡の安定を記したことは一定の成果といえる。一方で米国を東アジアにつなぎ留めるには中東対応が「取引」材料になる懸念が残った。
トランプ氏は会談の冒頭、報道陣から中国に対する考えを問われ「近いうちに中国に行く予定だ。首相に中国への考え方を聞きたい」と述べた。「(日中)両国の関係は少しぎくしゃくしているように思う」とも指摘した。
首相は「日本は中国への対話はオープンだ。冷静に対応している」と説明した。トランプ氏は習近平(シー・ジンピン)国家主席と日本についても話すと明言した。
首相は会談後、記者団に「中国や北朝鮮を巡る諸課題についても議論を行った」と語るにとどめた。議論の詳細は明かさなかったが、トランプ氏に対中抑止の重要性を念押ししたとみられる。
米側が発表した会談のファクトシートは「台湾海峡の平和と安定が地域の安全保障と世界の繁栄に不可欠な要素であり、実現に尽力する」と明記した。対話を通じた平和的解決を支持し、中国を念頭に「武力などによる一方的な現状変更の試みに反対する」と表明した。

高市政権にとって外交・安保上の最大の懸案は、米中が関係を深め、トランプ政権が東アジアへの関与を弱めることだ。首相の台湾有事が「存立危機事態」となり得るとした国会答弁が影響し、日中関係は悪化したままだ。
首相がこのタイミングの訪米を強く希望したのも、トランプ氏が3月末から訪中し、習氏と会談する予定だったためだ。
トランプ政権の中国への向き合い方は同地域の米同盟国の共通の懸念となっている。トランプ氏は西半球を優先する「ドンロー主義」を打ち出す。25年10月の米中会談を「G2会談」と呼び、中国との関係を重視してきた。
バイデン前政権では同盟国同士が関係を密にし、東アジアの秩序維持に努めた。日本や韓国、フィリピン、オーストラリアなどが結束し、米国を起点に放射線状に対中包囲網を敷いた。
中国抑止へ不安材料もある。長崎県の米海軍佐世保基地を拠点とする強襲揚陸艦トリポリは中東の戦闘に向かっている。沖縄駐留の海兵隊が乗るとみられ、南西諸島の守りが一時的に手薄となりかねない。
日本政府が首脳会談後に公表した声明は台湾に言及していない。石破茂前首相が25年にホワイトハウスを訪れた際は共同声明を出し「両首脳は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」と入れた。
安保で米国を東アジアにつなぎとめるには工夫がいる。
その一つが米国からの防衛装備品の調達だ。トランプ氏は会談の冒頭で、日本が米国から多くの軍事装備品を購入することを歓迎した。米ファクトシートも「日本への先進的な能力の配備に対するコミットメントを再確認した」と記載した。
航空自衛隊の「F35」戦闘機に積む空対空ミサイル「AMRAAM」の共同生産を加速する方針なども盛り込んだ。日本側が米国にライセンス料を支払うことになる。米国が推進する次世代ミサイル構想「ゴールデンドーム」に日本が協力する方向でも調整が進んでいる。
トランプ氏は訪中についてイラン情勢を理由に「5〜6週間」延期した。ホルムズ海峡への艦船の派遣要請に関し、欧州各国との確執が深まる中で、日本の中東対応が対中抑止の事実上のバーターになる可能性もある。
日本は米国との関係を強固にし続けることが対中抑止の最善の道と見ている。米国もまた競争相手である中国に地理的に近い日本を重視する。レアアース(希土類)など重要鉱物のサプライチェーン(供給網)強化といった経済に関わる問題では、米国と対中国での協調を打ち出しやすい。
トランプ氏が意識するのは秋の中間選挙だ。イラン攻撃や中東関与の是非を巡って米世論の視線は厳しく、「同盟国が費用と責任を分担する」という成果を示したいとの思惑がある。日本の協力を真っ先に引き出せれば、国内向けのアピール材料になる。
米国は中東、ウクライナ、中国という「3正面」への対応を迫られる。トランプ氏は米国の負担軽減につなげようと、同盟国の負担増を取引材料に使う傾向が強い。
首相にとっては難題続きだ。中東問題への協力は日本国内でも慎重論が強く、欧州や韓国も米国と一定の距離をとっている。首相は米国との同盟関係の維持と東アジアの安定との間で難しいかじ取りを迫られる。
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