税関当局のデータなどを分析したJETRO=日本貿易振興機構によりますと、中国からロシアへのオートバイの輸出台数は去年、およそ83万3000台で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった2022年と比べると1.7倍に増加しました。

これについてアメリカのシンクタンク、戦争研究所のカテリナ・ステパネンコさんは、増加の背景にはロシア軍が大量のオートバイを戦場に投入していることが影響している可能性があるとの見方を示しました。

戦争研究所によりますと、ロシア軍はオートバイを去年の秋ごろから戦場に投入し、ことし6月までにはオートバイの活用方法をまとめた「運用規範」も作成し、本格的に運用を始めたということです。

去年1年間にロシア軍に納入された中国製のオートバイはおよそ2万台とみられるということです。

ウクライナ軍の当局者はNHKの取材に対し「戦場で押収されるオートバイのほとんどが中国製だ」と話しています。

また別の関係者は「ロシア国内の製造能力だけでは戦場で急増する需要に追いつかないためだ」と話しています。

戦争研究所のステパネンコさんは「オートバイなどの軍事転用が可能な装備の中国からの輸入は、戦場に多大な影響を及ぼし、ロシア軍を優位にしている」と話していました。

ロシア軍 戦場にオートバイ投入 “戦車のかわり”か

戦争研究所は、ロシア軍が戦場にオートバイの投入を始めたのは去年の秋ごろからで、ことし6月までにはオートバイの活用方法をまとめた「運用規範」を作成し、本格的な運用が始まったと指摘しています。

戦場では主に、偵察や、突撃する歩兵部隊の輸送手段として使われているということです。

オートバイが戦場に投入された背景として、去年ウクライナ軍の無人機による攻撃でおよそ3000両の戦車を失ったとされるためだと指摘しています。

無人機の標的になりやすい戦車のかわりに、機動力が高いうえ小回りもきくオートバイを投入することで、損害をおさえるねらいがあったとみられます。

ロシア国防省がことし4月に公開した訓練の映像には、オートバイに乗った兵士が障害物を避けたり、爆発を回避したりしながら走行する様子が映っています。

一方、ウクライナ側がことし5月に公開した映像にはロシア軍の兵士らが所属部隊を表すとみられる旗を掲げたオートバイに乗り、一列になって走行する様子が確認できます。

またウクライナ内務省がことし8月に公開した映像には、ロシア軍の兵士がオートバイを乗り捨てて逃げようとしたり、乗り捨てられたオートバイが攻撃されたりする様子が映っています。

このほか、NHKはウクライナ軍の関係者から戦場で押収したというオートバイの映像を入手しました。

この中でウクライナ軍の兵士は「ウクライナを征服するために中国で製造された」などと話しています。

ウクライナ軍で南部方面の前線を担当するボロシン報道官は、ロシア軍は大量の中国製のオートバイを活用し、戦場での戦い方を進化させていると指摘しました。

そのうえで「ロシア軍は突撃作戦を行う際、3、4台のオートバイを使用する。機動力が高く、数秒のうちにわれわれのざんごうにたどりついてしまう。オートバイには無人機の飛行を妨害する電子戦の装置が搭載されていて、無人機で撃退することが難しくなっている」と述べ、脅威となっていると懸念を示しました。

ウクライナ軍もオートバイ活用した攻撃部隊編成

ロシア軍のオートバイ部隊に対抗しようと、ウクライナ軍はことし5月、SNSでオートバイを活用した攻撃部隊を編成したと発表するとともに映像を公開しました。

発表によりますと、部隊は数百時間にわたって訓練を行いオートバイで高速で移動しながら狙撃する方法などを身につけたということです。

公開された映像では兵士たちが2人乗りで走行し、後部座席の兵士が立ち上がって前方に向けて銃を撃ったり、素早く降りて銃を構えたりする様子が確認できます。

主な任務は敵の陣地を速やかに突破したり、攻撃する方向を迅速に変更したりすることだとして「現代の騎兵隊」と呼んでいて、機動力を生かして敵を混乱させることが期待されているとみられます。

ウクライナのオートバイ教習所 軍の関係者が増加

ウクライナの首都キーウにあるオートバイの教習所には、去年の夏ごろから運転技術を学ぶ軍の関係者が増えています。

現在、教習所に通う110人のうちおよそ40%が軍の関係者だということです。

教官の男性は「軍の関係者に対しては講習料などの費用は無料にしている。国のために役立っていると思う」と話していました。

30代の男性は「前線にいつでも行けるよう、運転技術を学んでいる。戦争で最も成功している作戦は小規模な機動力のある部隊だ」と話していました。

また40代の男性兵士は「前線には急な傾斜があったり、岩石があったりするので、いまの乗り方ではうまくいかないが、将来的には部隊に貢献できるかもしれない」と話していました。

専門家 “中国からの輸入 ロシア軍を優位に”

戦争研究所のカテリナ・ステパネンコさんはロシア軍がオートバイを活用する理由について、去年ウクライナ軍の無人機による攻撃で多くの戦車を失ったことをあげています。

ロシア軍は被害を抑えるために戦車よりも小型のオートバイを活用して少人数で攻撃をしかけ、一部は無人機を妨害するための電子戦装置を搭載しているとしています。

こうした戦術によってステパネンコさんは「ロシア軍の戦場での前進を可能にしている」と分析しています。

ステパネンコさんはロシア軍が活用するオートバイの多くが中国で生産されていると指摘したうえで「オートバイのほとんどは中国のペーパーカンパニーなどを通じて輸入されている。オートバイなどの軍事転用が可能な装備の中国からの輸入は、戦場に多大な影響を及ぼし、ロシア軍を優位にしている」と話していました。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。