
【ソウル=小林恵理香】北朝鮮の朝鮮中央通信は9日、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)への搭載を想定した固体燃料式エンジンの最終実験を実施したと伝えた。米国が北朝鮮との対話実現を探るなか、米本土に届く新型ICBMの開発能力を誇示したとみられる。
朝鮮中央通信によると金正恩(キム・ジョンウン)総書記は8日、ICBM用のエンジンの地上燃焼実験を視察した。金正恩氏は「核戦略兵器を強化するうえで重大な変化を予告するものだ」と強調した。同通信は8日のエンジン実験が最終段階だったとも報じた。
今回開発したエンジンには軽量で強度や耐熱性が高い炭素繊維の複合材料を用いたという。エンジンの重さを減らしつつ耐久性を高めることで、射程を長くして弾頭の重量を増やせるようにしたとみられる。
韓国・統一研究院の洪珉(ホン・ミン)先任研究委員は今回の実験について、出力がより大きいエンジンを開発するために不可欠な素材を自力で開発したことを誇示する意味があると分析する。
2024年の新型ICBM「火星19」の発射実験の際には、韓国軍合同参謀本部が新型にもかかわらずエンジン実験をした形跡が確認できなかったと指摘していた。北朝鮮が事実上の同盟関係にあるロシアから技術支援を受けた可能性もあるとみて分析を進めていた。
北朝鮮によるICBMの発射実験は24年10月末の「火星19」が最後となっている。同国は現在、火星19を上回る性能を持つとされる「火星20」の開発を進める。エンジン動作の安定を確認したことで、今後新型ICBMの発射実験に踏み切る可能性もある。
北朝鮮にとって核・ミサイル開発は対米交渉の際の切り札ともなる。第1次トランプ政権が発足した17年、北朝鮮は核実験やICBM発射を繰り返して緊張を高め、18年の米朝交渉につなげた経緯がある。
トランプ米大統領は25年中にも再び北朝鮮との直接対話の実現に意欲を示す。北朝鮮側も米朝協議を契機に、米国に北朝鮮を「事実上の核保有国」と認めさせ、制裁解除などを引き出したいという狙いがあるもようだ。
北朝鮮は核・ミサイル開発の強化を着実に進めている。国際原子力機関(IAEA)は8月に発表した報告書で北朝鮮が「核実験を実施できる状態を保っている」と指摘した。米国との交渉で18年に閉鎖した北朝鮮北東部・豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の復旧作業が進んでいるとみる。
金正恩氏の妹、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は7月の談話で、米朝首脳会談の実現について「わが国が不可逆的な核保有国の地位と能力を持ち、地政学的環境も根本的に変わったという厳然たる事実を前提にすべきだ」と主張した。
北朝鮮はウクライナ侵略への支援でロシアとの同盟関係を深めた。中国はロ朝両国への制裁が自国に飛び火するのを避けるため一定の距離を置いてきたが、6年ぶりに中朝首脳会談を実施するなど関係改善に向け動き出している。
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