
フランスの国民議会(下院)が8日、バイル内閣の信任投票を否決し、内閣総辞職が決まった。財政再建をめざす予算案への支持を少数与党として確認するための投票だったが、野党側の理解を得られなかった。ユーロ圏2位の経済大国の政局不安を懸念する。
この2年で首相が4人も交代する異例の事態で、市場では財政悪化への警戒が広がる。近く後継首相を指名するマクロン大統領は、国民の痛みを伴う予算案への理解が広がるよう、謙虚な姿勢で指導力を発揮してほしい。
バイル首相は7月、2026年度予算案に年金支給額の据え置きなど438億ユーロ(約7兆6千億円)の歳出抑制策を盛り込むと発表した。25年度は国内総生産(GDP)比で5.4%を見込む財政赤字を段階的に圧縮し、29年度に2.8%まで減らす内容だった。
仏国債は9月初旬にかけて期間30年などの超長期債を中心に売られ、利回りが急上昇する場面があった。足元では債券売りは収まったものの、格付け会社の間で仏国債格付けを再評価する作業が始まっており、財政不安が再燃するリスクは消えていない。
2.8%は政府債務の規模が安定すると期待できる水準で、3%以下に抑えるという欧州連合(EU)の財政ルールもクリアできる。負担増の議論から逃げずに財政再建を急ぐ方向性は妥当だった。
それでも国民に理解が広がらない背景に、マクロン氏の関与不足がある。同氏はこれまで国民に不人気な内政課題は首相に任せ、自身は専管事項である外交に注力する姿勢をみせてきた。ただ政局混乱が続けば、外交政策でも思い切った施策をとりづらくなる。
マクロン氏にはかねてから「エリート主義が強い」との批判があり、政権支持率も低迷してきた。10日には全土で政権の経済政策に抗議する大規模なゼネストも予定されている。同氏は今後、自らの言葉で財政再建の必要性を国民や野党勢力へ丁寧に説明し、政局の混乱の収拾を急ぐべきだ。
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