ネパールってどこにある?

ネパールは、南はインド、北は中国と国境を接する南アジアの国です。
面積は北海道と九州、四国をあわせたより少し大きいぐらいで、人口はおよそ3000万。首都はカトマンズで、最高峰のエベレストをはじめ、標高8000メートルを超える山々が連なっています。
そもそもネパールってどんな国?
およそ240年にわたって王制が続き、「ヒマラヤの王国」とも呼ばれてきましたが、王制は2008年に廃止されました。
カトマンズがあるカトマンズ盆地一帯はユネスコの世界文化遺産に登録され、13世紀から18世紀にかけて建てられた王宮や寺院、塔など、多くの歴史的建造物が残されていましたが、2015年の大地震で大きな被害を受けました。

日本は長年、インフラ整備などを支援していますが、目立った産業がなく、失業率も高い状況が続いていて、多くの国民がマレーシアや中東などで出稼ぎをしています。
2024年末時点で、日本に滞在するネパール人は23万人を超えています(出入国管理庁調べ)。
ネパールで何が起きた?
9月4日。政府がフェイスブックやインスタグラム、Xなどの主要なSNSについて、使えなくする措置をとりました。
これに反発する若者たちが首都カトマンズなどで大規模な抗議活動を行い、連邦議会に群衆が押し寄せたり、オリ首相の自宅に火が放たれたりするなど、混乱が広がりました。
これを受けて、政府はSNSを使えなくする措置を撤回、オリ首相は辞任を発表しましたが、これまでに51人が死亡する事態となっています。

SNSの禁止でなぜここまで抗議活動が激化したのか。今後、混乱は収まっていくのか。長年、ネパールを研究している京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科の藤倉達郎教授に聞きました。
以下、藤倉教授の話(※インタビューは9月10日に行いました)
なぜ政府はSNSを禁止した?
ネパール政府は、以前からSNSによるうわさの流布や、特に、政府に対する批判にかなり神経をとがらせていました。
実際にフェイクニュースやデマがSNSで広まって、最高裁でも、政府に「デマの流布を食い止めるための措置」を求める判決が2年前に出されています。
TikTokに関しては、2023年に半年ほどネパールでは禁止されていました。根拠のない誹謗中傷などを防ぐという名目で禁止されていたんですが、TikTok側がちゃんとネパールにオフィスをつくって、そういうことに対処する。さらにはネパールの観光振興にも貢献するという協定を政府と結んで、TikTokはまた再開されたということがありました。
政府はこの経験をもとに、フェイスブックをはじめとして、ほかの大手のプラットフォームにも、ネパールでちゃんと登録をして代理店などを出して、迅速にいろんなことに対処できるように、という要求をしました。期限を設けましたが、ほとんどのところは期限までに応じてこなかったので、一方的に今回の措置に出たんです。

今回のデモ 特徴は?
これまでもデモはよく起こっていて、特に1990年の民主化、2005年、2006年の民主化のときにも大きなデモが起こっていますが、今回特徴的だったのは、デモの名前自体が「Z世代のデモ」ということです。
高校生や中学生も含めて、20代前後の若い人たちが中心になってやったデモだということで、これは非常に新しいことだったと思います。
もう1つは、2日目にデモが非常に暴力化したということ。この背景には、1日目のデモのときに、参加者が少なくとも19人殺されたということがあります。
ネパールの社会運動、デモで1日にこれだけの人数が死んだことは、これまでの大規模な民主化運動ではなかったので、非常にショッキングなことでした。しかも、学校の制服を着た子どもたちが殺されたりけがをしたりしたということは、かなり大きな要因だったと思います。

なぜ若者がデモの中心に?
これまでの民主化運動では、政党やいろんな組織が中心になってやってたんですが、今回は、SNSなどでつながった、どの政党を支持しているというのがない、どちらかというと、政党自体に幻滅している若者たちが中心でした。
なぜこの子たちが出てきたのかというと、やはり非常に、格差とか、機会の平等が今のネパールにはないということで、そのことに非常に大きな不満を感じています。
このデモにいたるまで「nepokids」というハッシュタグで、ネポティズム(縁故主義)によって、よい暮らしをしている子どもたち、例えば、大物政治家や政府の高級官僚の子どもたちが信じられないような大豪邸に住んだり、外国でいい暮らしをしたりしている写真と、ごく普通の農村に住んでいるネパールの人たちの写真を並べるみたいなSNSの投稿がたくさん出回っていて、そこに非常に矛盾を感じるということになっています。

背景にあるのは格差?
ネパールで真面目にやっていても、なかなかいい生活ができない、望んでいるような生活ができない。それで仕方なく借金をして外国に行かざるをえないというような状況を多くの若者が感じていて。
ただ、本当は外国に行くととても苦労するということを、SNSで情報が入ってくるので、みんなわかっているんですね。なので本来は、ネパールの制度がちゃんとしていて、みんなルールを守ってやっていれば、ネパールで真面目にやっていれば、いい暮らしができるというふうになればいいなと思っています。でもそれができないことへの不満があるんです。

リーダーたち、その子どもたちが、普通の議員報酬、あるいは官僚としての給料では、絶対に買えないような家に住んだり生活をしたりしているというので、明らかに何かがおかしい。
それに比べて自分たちや自分たちの家族は、例えば、親が中東やマレーシアで肉体労働をして、なんとか自分たちを学校に通わせてくれている。
あるいは自分たちも借金して、外国で働きながら、なんとか勉強しなければいけないというような状況を比べて、2015年に新しい憲法ができましたが、それ以降の政治に非常に幻滅しているという状況があったと思います。
そのことを表明しようということで、多くの学校の生徒を含めた、若い人たちが集まったと考えてます。
ネパールの政治がダメなの?
ネパールでは1996年から10年間、マオイストの革命運動による内戦が続いていたんですが、2006年にそれが終結して、王政は廃止して、民主共和制でやっていこうということで、新しい憲法ができました。
非常に希望に満ちている時期というのがあったんですが、それ以降の連邦制度下の議会政治というのが、なかなか前に進まない。
主な政党が3つあったんですが、それが連立の組み替えを繰り返して、権力争いだけをしている。しかもその権力争いというのが、自分たちの政党へ利益を誘導するという目的のためだけにずっとやっているようにしか見えないということで、非常に議会政治、政党政治に幻滅するということがありました。

反発広がった一番の要因は?
ネパールは山岳地帯が多くて、固定電話の電話線が通じているところがほとんどありません。2000年代以降、通信塔と、ちょっとの電気があれば使える携帯が急速に普及しました。ネパールの人口以上の携帯契約件数があります。
かなり貧しい人でも頑張ってスマホを買って通信しています。それを何に使っているかというと、海外で働いている家族、親族、あるいは友人と連絡をとるわけです。
それに加えて、仕事とか勉強に関しても、SNSを日常的に利用して暮らしているわけで、それを止められると、ほとんどの人が非常に困るわけです。

フェイクニュースの流布を止めるということは正当な理由ではあるんですが、SNS自体が使えなくなるという状況、政府が「それを止めても構わない」と思ったところに、認識、感覚のずれが大きく出ていて、それが、国民の怒りを買い、本当にたくさんの人がデモに参加する大きなきっかけになったと思います。
特に海外に出ている人たち、家族や親戚と連絡を取りたいということ。
Wi-Fiなどがあれば、無料でその人たちとビデオ通話、通信ができるわけですから、そうやって何とかつながっていく、海外で苦労して働いている人と、こっちに残って苦労している人が連絡を取り合っているという、その手段が失われる、切断されるということで、日常生活の一番大事なところが断ち切られるという感覚を持った人が多かったと思います。
今後どうなる?
今は非常に見通しが立たない状況にあると思います。
オリ首相が辞任を表明しただけでなく、ほとんどの閣僚のところに群衆が押しかけたり家を焼いたりしたので、内閣のメンバーもすべて避難しています。
国会議事堂、最高裁判所、官庁の本部もすべて焼かれています。行政府、立法府、司法、全ての中心が焼かれているので、完全な空白ができている状態です。今、国側の組織として機能しているのは軍隊だけで、警察も群衆を恐れてなかなか行動できない状態になっています。
軍隊はこれからデモの中心となった若者たちと話し合いを持つということも言っています。そういう話し合いを通して、このあと暫定政府をどうつくっていくのか、そしてその先にどういう選挙をするのかみたいな話がうまくできるかどうか。
これからネパールが安定化するとすれば、そういう段取りで進んでいくと思いますが、それがまだちょっと分からないと思います。

(9月10日 国際報道2025で放送)
吉川 綾乃
2018年入局 鳥取局 国際放送局WorldNEWS部を経て2024年から現所属
大学時代は交換留学生としてイタリアで学ぶ
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