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<8月は長すぎる「日曜夜の憂鬱」のよう──じわじわと心を蝕む「オーガスト・スケアリーズ」との向き合い方を専門家に聞いた>

8月といえば、太陽が輝き、昼が長く、バカンスに最適な時期だが、夏が終わることに対する「憂鬱」を多くの人が感じる季節でもある。

【動画】「6月は金曜日、7月は土曜日、そして8月は日曜日」...8月病に苦しむ女性の動画に共感の嵐

TikTokではいま、「オーガスト・スケアリーズ(August Scaries)」という言葉とともに、夏の終わりに訪れる漠然とした不安や物悲しさを共有する投稿が広がっている。

投稿者のレーガン・スウィーニー(@regansweeney)は、話題を呼んだ動画の中でこの感覚をこう表現した。「6月は金曜日、7月は土曜日、そして8月は日曜日」――この比喩には、1万3400件以上の「いいね」が集まり、動画は7万2000回以上再生されている。

スウィーニーによれば、6月はまだ仕事や学校が忙しく、「金曜日を待つような高揚感」があるという。一方で、7月は「1年で最も完璧な月」。それは彼女にとって、土曜日が1週間で最も完璧な日であるのと同じ感覚だ。

だが、そこに訪れるのが8月だ。週末はまだ終わっていないはずなのに、終わりがじわじわと迫ってくる。スウィーニーは動画にこうキャプションを添えた。「8月は世界で最も長い『日曜夜の憂鬱』」。

なぜ憂鬱な気持ちになるのか

臨床ヒプノセラピスト(催眠療法士)であり「メンタルヘルス・ファーストエイド(こころの救急マニュアル)」の修得者でもあるイングリッド・ラドフォード氏は本誌の取材に対し、「人間の脳は予測可能な状態を好むようにできている」と語る。

「夏休みの終わりや新学期の始まり、仕事が再び忙しくなるタイミングなど、日常のリズムが変化すると、脳内の『脅威探知機』である扁桃体がそれを危険と見なして警報を鳴らすことがある」とラドフォード氏はいう。

こうした脳の反応が、不安や過剰な思考、さらには「夏の終わり」に対する静かな喪失感につながるというのだ。

また、ヴィータ・ヘルス・グループ(Vita Health Group)の心理療法士で職場のメンタルヘルス研修を担当するジョセフ・コンウェイ氏も、「たとえ前向きな変化であっても、心理的な負担を感じることはある」と本誌に語っている。

「夏の終わりのこの時期、職場では『ダブルパンチ』が起きやすい」と語っている。「多くの人にとって『オーガスト・スケアリーズ』は、休暇モードのまま現実――メール、締め切り、通勤――に直面する状態を意味する」

そうした混乱をやわらげるために、コンウェイ氏は短時間の作業と意識的な休憩を織り交ぜながら、少しずつ日常に戻ることを勧めている。たとえば「子どもを学校に送ったあと、あえて遠回りして帰る」といった、個人的なちょっとした行動を取り入れるのも効果的だという。

うつ病治療のためのホームケア機器を開発するフロー・ニューロサイエンス(Flow Neuroscience)の臨床精神科医でメディカルディレクターのハンナ・ニアニー医師は、「オーガスト・スケアリーズとは『ストレスの予測』のようなもの」だと説明する。

「脳内では、計画や自己調整を担う前頭前野と、脅威を探知する扁桃体との間で綱引きが起きている。こう考えてみてほしい。8月になると、扁桃体も休暇から戻ってきて、しばしば前頭前野に勝ってしまう。実際に危険があるわけではなくても、脳は『これからやってくる要求』をリスクとして捉えてしまう」とニアニー氏は語っている。

ニアニー氏は続けて、「これは、厳しい季節の到来を前にして祖先たちが感じていた不安と同じ神経回路によるもの。ただ現代では、私たちが備えている『秋』や『冬』が、会議や子どもの送り迎え、締め切りという形になっているだけ」と説明する。

こうした感覚を和らげるために、ニアニー氏は9月が本格的に始まる前に、日常のリズムを少しずつ取り戻すことを提案している。

そのうえで、1つは「自発的な活動」を残しておくこと、そして気分の落ち込みが深刻な場合には、非侵襲の脳刺激療法(※外科手術を伴わない脳への刺激治療)の選択肢を検討するのも1つの方法だという。

気候心理学の教育者でありセラピストでもあるレスリー・ダベンポート氏も、「8月は『移行のプレッシャー』と『夏の心地よさの喪失』が入り混じる時期だ」と述べている。

「まず知っておいてほしいのは、これは『普通のこと』だということ。この感情が起きていると認識し、『そういえば去年もこうだった』と一度思い出すだけで、少しずつ緊張は和らぐ。それに、楽しい時間や冒険が完全に終わってしまうわけではないということも、忘れないでほしい」とダベンポート氏は語った。

秋の始まりに小さな楽しみを計画する――たとえば週末の小旅行や、季節の風物詩を楽しむこと――こうした工夫によって、8月の憂鬱は「終わりへの不安」から「これからへの期待」へと切り替えられる。

公認メンタルヘルスカウンセラーのアディナ・ババド氏は本誌の取材に対し、「季節の変わり目は、時間の流れを意識させられることで、人生の意味を意識させるような感情を引き起こしやすい」と語る。

「特に夏は、多くの人にとって『自由』と結びついている。子どもの頃の『夏休み』の記憶がそう感じさせる人もいれば、日照時間が長いことで気分が上向きになるため、夏にポジティブな印象を持つ人も多い」とババド氏は説明する。

彼女は、そうした気分の切り替えに役立つ具体的な方法として、「この夏のハイライトを振り返ること」「これからの数か月で楽しみにしていることをリスト化すること」、さらに「喜びや人とのつながりを感じられるイベントや活動を積極的に計画すること」を勧めている。

「オーガスト・スケアリーズ」がTikTokを席巻

TikTokユーザーの@lmoneyy222もこの感覚に共感し、「みんな、また『オーガスト・スケアリーズ』が来た。この感じ、毎年ほんとに嫌になる」と投稿している。

@kaitlyngaleもTikTok動画で同じような気持ちを語り、8月の「ほろ苦さ」に対する嘆きを共有している。

「8月は、まるまる1カ月が『日曜夜の憂鬱』みたいなもの。気温32℃の夏が終わる最後の月で、プールに行けるのもこれが最後。あと1カ月で日没は午後5時になり、季節性うつの時期も近づいてくる。夏が終わると思うだけで、本気で具合が悪くなる」

この他にも、

「9月は月曜日、10月は金曜日、11月は木曜日。ルールを決めてるわけじゃないけど、そう感じるんだ」
「6月の初めは金曜の朝、6月中旬は金曜の午後3時、6月末は金曜の夜って感じ」
「わかる、8月は日曜の夜っぽいのに、12月はなぜか日曜の朝みたいな気分になるんだよね」
「毎年8月になると、気持ちがそわそわして落ち着かないって、母親にも話してた」

と共感の声が集まった。

【8月病に打ち勝つ方法】

専門家たちは共通して、「オーガスト・スケアリーズ(8月の憂鬱)」に対処する鍵は「準備」にあると指摘している。その具体的なポイントは以下の通り:

・秋以降にも楽しめる予定を先に立てておく
・夏が完全に終わる前に、少しずつ日常のリズムを取り戻す
・自由な感覚を完全に失わないように、自発的な行動の余地を残す
・この気持ちを否定せず、「誰にでも起こりうること」として受け入れる

無理に抑え込もうとせず、自然な感情の流れとして理解することが、8月の憂鬱をやわらげる第一歩になる。

@regansweeney august is the world's longest sunday scary #Summer ♬ original sound - REGAN SWEENEY

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