2025年のノーベル生理学・医学賞の受賞者=ノーベル財団の動画から

スウェーデンのカロリンスカ研究所は6日、2025年のノーベル生理学・医学賞を大阪大学の坂口志文特任教授(74)、米システム生物学研究所のメアリー・E・ブランコウ氏、米ソノマ・バイオセラピューティクスのフレッド・ラムズデル氏に授与すると発表した。坂口氏は免疫反応を抑えるブレーキ役となる「制御性T細胞」を発見した。免疫の仕組みの核心に迫る研究で、自己免疫疾患やアレルギー、がんといった様々な病気の新たな治療法の開発に道を開いた。

日本生まれの自然科学分野のノーベル賞は21年に物理学賞を受賞した米プリンストン大学の真鍋淑郎上席研究員に続き26人目(米国籍を含む)。生理学・医学賞は18年の京都大学の本庶佑特別教授に続き6人目となる。

授賞理由は「末梢免疫の抑制に関する発見」。坂口氏が発見した制御性T細胞は免疫細胞の活動を制御する役割を担う。免疫はウイルスや細菌など外敵である「非自己」と、自分の体をつくる細胞の「自己」を区別し、非自己だけを排除する仕組みだ。

非自己と自己をうまく区別できなくなると、自分自身の体を攻撃して傷つける自己免疫疾患になってしまう。制御性T細胞は自己に対する異常な免疫反応を抑えて自己免疫疾患を防ぐ。米国の2氏は自己免疫疾患に関わるFoxp3という遺伝子を発見した。後に坂口氏らはFoxp3が制御性T細胞の成長を制御することを突き止めた。

大阪大学の坂口志文特任教授(2017年、大阪府吹田市)

坂口氏は京都大学に在学中、胸腺という臓器を取り除いたマウスが自己免疫疾患に似た症状を起こすとの研究報告を読んで興味を持ち、研究を始めた。免疫細胞の一種であるT細胞の中には免疫の暴走を抑えるタイプが存在するとの仮説を立てた。

こうした細胞の存在を疑う研究者も多く逆風にもさらされたが、根気強く研究を進めて1985年に存在を示した。95年にはこの細胞の特定に成功し制御性T細胞の発見者となった。その後も制御性T細胞で働く重要な遺伝子を特定するなど成果を上げた。研究成果の実用化に向け、阪大発スタートアップのレグセル(米カリフォルニア州)を2016年に設立している。

制御性T細胞の働きを操作することができれば、免疫が関わる病気や症状を治療できると期待される。自己免疫疾患の患者の制御性T細胞を体外で増やして投与し、過剰な免疫を抑える。臓器移植で起きる拒絶反応を抑える方法も開発が進む。

がんの治療では逆に、がん組織に集まった制御性T細胞を除いたり働きを抑えたりして、他の免疫細胞にがんを攻撃させやすくする方法の研究が進む。

授賞式は12月10日にストックホルムで開く。賞金は1100万スウェーデンクローナ(約1億7000万円)で、受賞する3人で分け合う。

さかぐち・しもん 1976年京都大学医学部卒業、83年博士号取得。米スタンフォード大学研究員、米スクリプス研究所助教授、東京都老人総合研究所などを経て99年京大再生医科学研究所教授、2007年同所長。11年大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授、16年から阪大特任教授。08年慶応医学賞、15年カナダのガードナー国際賞、17年スウェーデンのクラフォード賞、20年ドイツのロベルト・コッホ賞など受賞多数。

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