「すみません」
来場者でごった返す9月中旬の大阪・関西万博会場で、私は小学生ぐらいの男の子に声をかけられた。
迷子かと思いひざを折って目線を合わせると、男の子はピンバッジがたくさん詰まったジッパーバッグを取り出した。
「ピンバッジトレードしてもらえませんか?」
万博の各パビリオンでは独自色のあるピンバッジが販売されている。それら同士や、日本のご当地バッジとの交換が、万博会場ではひそかなブームとなっていた。
実際に、海外パビリオンのスタッフが首から下げるAD証(関係者入場証)のストラップに、カラフルなピンバッジがいくつも付けられているのもよく見る。
北欧パビリオンのスタッフで、デンマーク出身のオリバー・バストさん(25)もその一人だ。
彼のコレクションは宮城県の伊達政宗公、群馬県の名産品だるま、愛知万博公式キャラクターのモリゾーとキッコロ……。いずれもピンバッジトレードで来場者と交換したものだという。
なかでもオリバーさんには忘れられないバッジがある。
ある日、パビリオンを訪れた女の子がもじもじとこちらを見てきて、「あげる」と折り鶴のバッジを渡してくれた。突然のことでお礼のピンバッジを渡せなかったが、「温かさを感じてすごくうれしかった」。
オリバーさんは「バッジ一つ一つに思い出が詰まっている。帰国しても大切にしたい」と話す。
私のAD証ストラップにも今、12個のピンバッジが付いている。もちろんその一つは、私のトルクメニスタンのバッジと交換して、男の子がくれたキティちゃんのバッジだ。
国籍を問わず、誰かと話すきっかけにもなるピンバッジトレードができるのも、あとわずかだ。
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