スイスの大手スーパーのコープで販売している、様々なベジタリアンやビーガン向けの食品 © Coop

<本物そっくりの味わいと天然素材にこだわった製品が再ブームを巻き起こした──>

ここ数年、スイスの大手スーパーマーケットでは「豆やキノコをベースにした植物性代替肉」の品揃えが劇的に進化している。植物性代替肉は、10数年前にヨーロッパで流行し、スーパーでの販売だけでなく、オランダにはベジタリアン・ブッチャーという代替肉専門店が登場し(2010年開店。後に買収)、スイスのベギ・メツグ(2013年開店、昨年閉店)も好評を博した。アメリカでは代替肉ブームはひと段落したようだが、いま、ヨーロッパでは第2のブームが起きているようだ。

2033年の市場規模は、95億ドルを超える

細胞性食肉(培養肉)をはじめ、様々な代替タンパク質の普及活動を行う国際的な非営利団体、グッド・フード・インスティテュート(GFI)が実施した消費者調査によると、2023年、ヨーロッパ10カ国で肉をよく食べる人の割合は6割だった。これは、なかなか高い数字といえるだろう。とはいえ、回答者の51%が「前年と比べて肉の消費量を減らした」と回答している。肉の摂取量を減らすと決めた理由として最も多かったのは「健康維持」(47%)。次いで動物福祉(29%)、環境への配慮(26%)だった。


ヨーロッパにおける植物系の代替肉の市場は2024年に24億7000万米ドル規模に達し、今年から2033年にかけ成長を続ける見込みだ。2033年には、およそ4倍の95億4000万米ドルにまで達すると予測されている。特にドイツ、イギリス、オランダでは消費量の伸びが目覚ましいという(こちらの調査)。

ドイツとイギリスにおける植物性食品の消費に関する最近のGFIの調査によると、ドイツでは37%、イギリスでは34%の人が過去1年以内に植物性代替肉を食べていることがわかった(*2024年末に実施。各国で約2400人が回答。半数以上が過去1カ月内に1つ以上の植物性食品(植物性ミルクなども含む)を摂取)。

代替肉の消費を牽引するこの2カ国で、最近、「肉に非常によく似ている」「安心して食べられる原材料を使っている」と評判の製品がある。100%天然素材で作られた「プランテッド(Planted)」という代替肉だ。

TIME誌も注目 スイス発・天然素材の代替肉が急成長

プランテッドの代替肉製造ライン ©PlantedFoodsAG

プランテッド(プランテッド・フーズ社)は、2019年に設立されたスイスの企業だ。共同設立者のパスカル・ビエリ氏がアメリカに長期滞在していた際、多くの代替肉に食品添加物が含まれていたことを知り、健康的な代替肉を広めたいと思ったことが起業のきっかけだったという。

同社は現在、まるで牛肉に見えるステーキ、鶏肉のようなパン粉揚げ、ソーセージタイプなど20種類近くを製造販売している。工場はチューリヒに置き、6月には、輸出の75%を占めるドイツに工場をオープンさせたばかり。イタリアやフランスなどでも人気が高まっている。

同社の成長は目覚ましく、2021年には「トップ100スイス・スタートアップ・アワード」で第1位を獲得し、最近では、米TIME誌「2025年度 世界トップグリーンテック企業」で5位にランクインした。このランキングでは、環境に良い影響を与えている世界中の企業8000社以上が審査された。

プランテッドの代替肉は、確かにおいしい!

筆者はベジタリアンではないため、代替肉は積極的には食べない。代替肉は概してあまりおいしくないという思いもある。しかし、プランテッドの噂を耳にし、それほどの人気ならばと3種類を試してみた。選んだのは、①昨春発売の「ステーキ」、②インド料理の「タンドーリ」(ヨーグルトと香辛料で味付けした鶏肉)、③トルコ発祥のファストフード「ケバブ」(肉の塊の外側を焼いて削ぎ落としたもの)だ。

同社製品は天然素材のみで、食品添加物はゼロ。生地は、植物性タンパク質を動物の筋繊維に似せて細長い形状にプレス成形する。そして生地を発酵させて、風味を高めている。なお、環境への貢献の点では「ステーキ」の場合は、牛肉生産に比べてCO2排出量を97%、水の使用量を81%削減する。

スイス製Plantedのステーキ。こちらはプレーン風味。パプリカ風味もある (筆者撮影)

ジューシーで柔らかいステーキは、大豆タンパク、菜種油、米粉、豆粉、スパイスなどで作られ、ビーツ(赤紫色の根菜)の濃縮物で色付けされ、本物の牛肉のようで、食欲をそそられた。くせがなく、おいしかった。タンドーリ・チキンも鶏肉のような食感で、スパイスの風味も筆者の好みだった。一方、ケバブは口に入れてしばらくは本物の肉のようだったが、噛み続けると徐々に豆の香りが感じられ、また、少し辛過ぎたこともあり、リピートはしないと思った。

全体的には、おいしい代替肉だった。プランテッドの公式サイトで口コミの評価がとても高いのも納得した。

スイス連邦最高裁判所が、パッケージの「チキン」の表示を禁止

絶好調ともいえるプランテッドだが、5月に、製品名に関して少し驚くニュースが国内メディアを賑わせた。スイスの連邦最高裁判所が、植物由来の代替肉のパッケージに「チキン」「ポーク」といった動物種名を使用してはならないとの判決を下したのだ。ただし、「ステーキ」や「フィレ」といった名称は表示できる。

この騒動は、食品や消費財の安全性を検査するチューリヒの州立研究所が、プランテッドに対し「栽培した鶏肉」「鶏肉のような」といった用語の使用を禁止したことに端を発している。下級裁判所は研究所の決定を支持した。

プランテッドは、チューリヒ行政裁判所(州裁判所)に控訴し、「90%以上の人が同社の製品のパッケージを見て、代替肉だと判断した」という調査を提示した。行政裁判所は「ビーガン」という言葉が明確に表示されている限り、消費者に誤解を与えることはない(代替肉を肉と誤認することはない)ため、同社が用語を禁止する必要はないと判断した。そして、連邦内務省がこの判決に異議を唱え、連邦最高裁判所に上告したのだった。

最終的に、連邦最高裁判所は行政裁判所の判決を覆したわけだが、EU(スイスは非EU加盟国)でも、同様の動きが起こっている。先月、欧州委員会(EUの行政執行機関)は、代替肉製品のパッケージで29の動物関連用語の使用を禁止することを提案した。消費者が用語を見て肉なのかどうか混乱してしまうのを避けるべきだ、という主張だ。

食肉業界への配慮か?

代替肉のパッケージは、本当に消費者の誤解を招きやすいのだろうか。スイスの市場を見れば、そもそも「精肉・加工肉製品」と「代替肉」の売り場は切り離されている。

法の調整は、「代替肉の人気に押され、今後、精肉の消費量がどんどん下がる」という食肉業界の懸念を解消するためにも必要なのかもしれない。ドイツのハインリッヒ・ベル財団の『肉図鑑2021』では、世界の市場で占有率が圧倒的に高い精肉は15年後には40%にまで下がる可能性があると指摘している。

[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。欧米企業の脱炭素の取り組みについては、専門誌『環境ビジネス』『オルタナ(サステナビリティとSDGsがテーマのビジネス情報誌)』、環境事業を支援する『サーキュラーエコノミードット東京』のサイトにも寄稿。www.satomi-iwasawa.com

【動画】代替肉でギネス世界記録を更新


スイスのプランテッドは、エンドウ豆から作ったヴィーガン・シュニッツェルで、従来の記録を11メートル更新する全長119メートルのシュニッツェルを作った。 Planted. / YouTube

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