帰省客や旅行客らでごった返すJR広島駅の新幹線ホーム=広島市南区で2023年5月3日午前10時1分、矢追健介撮影
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 まもなく年末年始の帰省や旅行シーズンが始まる。ただ、赤ちゃん連れの家族にとっては、新幹線などの公共交通機関で長距離を移動するのは一苦労だ。「子どもがぐずって、周りに迷惑をかけたらどうしよう」と不安に思っている人もいるかもしれない。乗り切るためには、どんな工夫があるのだろうか。

 講談社の漫画アプリ「Palcy(パルシィ)」で、子育てエッセー漫画「ぱるたん~ちいさい人とのくらしは毎日たのしい~」を連載中の漫画家、松本ひで吉さんに話を聞いた。

ワンオペ新幹線の旅で息子が大泣き

 ――松本さんは、2023年春に出産した息子さん(ぱるたん、2歳)と2人で、新幹線に3時間半乗って帰省する様子を漫画でたびたび描いてきました。息子さんが生後10カ月のころ、新幹線で大泣きした日のことも描いています。

 ◆ぱるたんがうとうとしていたところ、新幹線の車内アナウンスの大きな音で目が覚め、怒って泣き出してしまいました。すごく大声で泣いてしまい、周りの人に申し訳なくて、席を立って車両の連結部に行きました。反り返って泣く子を連結部で立ってあやしていると、みかねたパーサー(乗務員)が、座れるスペースがある個室に避難させてくれました。

 駅に到着後、ホームでぱるたんを抱っこしながら、片手でベビーカーを広げようとして手間取っていると、中年の男性がすっと来て、手を貸してくれました。おそらくこのベビーカーの使い方を知っていたのではないかと思いますが、とてもスマートでした。

松本ひで吉さんが生後332日目の息子と新幹線に乗る様子を描いた漫画=松本ひで吉さん提供
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 ――赤ちゃん連れの移動で周囲の迷惑になることを心配する人は多いと思いますが、松本さんは漫画で「赤子連れ旅は本当に大変だけど かならず助けてくれる人がいるのでなんとかなる 知らなかった世界だなぁ」と書いています。

 ◆私もすごく不安だったのですが、助けられたことはあっても、嫌な顔をされたことは一度もありませんでした。みんなから舌打ちされるのではないかと身を小さくしていたんですが、優しくしてくれる人ばかりでした。

 ただ、親の側も、子が大声を出しているとか、 物を散らかしたりしているということに対して、周りの人が不快な思いをしないように配慮する責任があると思います。(子どもがいる人もいない人も)お互いに思いやりを持てるといいなと思います。

赤ちゃん連れで役立ったアイテムは?

 ――何度も新幹線で帰省していますが、改めて振り返ると、息子さんが何カ月のころが大変でしたか。

 ◆初めての子どもだったので緊張してハードルが高く感じたのですが、いま思えば、生後半年くらいまでは実は楽でした。このころはまだ泣き声が小さく、よく寝てくれました。

 生後半年を過ぎたころから、ちょっとてこずるようになりました。体が大きくなって泣き声も大きくなったのに、感情のコントロールができないし、言葉もしゃべれないので、一番しんどかったです。2歳くらいになって、言葉でコミュニケーションをとれるようになると、一緒にゲームしたりできるようになって少し楽になりました。長時間は控えた方がいいかなと思いますが、(タブレットなどで)動画を見せれば、おとなしくできるようにもなりました。

 ――新幹線で役立ったアイテムはありますか。

 ◆インスタグラムのフォロワーさんからいろいろとアドバイスをもらいました。100均(100円ショップ)で買った未開封のおもちゃをカバンにたくさん詰めていくのは、0~1歳児にめちゃくちゃ効果的です。窓にくっつくおもちゃとか、水塗り絵(水を塗ると、色が浮き出る塗り絵)とか、とにかく数を用意して、子どもと一緒に少しずつ開封していきます。

 硬いせんべいとか、食べるのに時間がかかるおやつも効率がいいです。赤ちゃんが靴を脱いで床に下りられるように、座席の足元にレジャーシートを敷くといいというのも聞きました。あと、車両の一番前の席と一番後ろの席は、ベビーカーを畳まずにそのまま置けるので便利です。

「自分用の日記」だった「ぱるたん」

松本ひで吉さんが生後688日目の息子と新幹線に乗る様子を描いた漫画=松本ひで吉さん提供
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 ――産後間もない時期から漫画を描き続け、25年10月には、息子さんが生後4カ月までの様子を収録した単行本の1巻を出しました。

 ◆漫画を描くのが好きなので、何かの形で描きたかったというのが一番です。これは、もともと公開する気がない、ただの自分のための絵日記だったんです。絵日記にすることは、メタ認知する(自分を客観的に捉える)のに非常に役に立つなと思います。特に夫とけんかしたときは、漫画に描いてから1カ月くらいたって振り返ると、笑えるんですよね。自分の視野が狭くなっているなということに気づく手助けになっています。

 ――産後は体調が万全ではないので、描くのは大変だったのではないでしょうか。

 ◆肉体的にはあまり頑張れなくなって、ゾーンに入るような集中の仕方はできなくなりました。いずれ元に戻るのかもしれませんが、いまは集中力が切れやすくなってしまい、できるだけ短時間で働くようになりました。メンタルの方は、最近ちょっとずつ元通りになってきましたが、産後すぐから1年くらいの間に描いた漫画は、すごく感情的だなと思います。

 ――いまも息子さんの成長を毎日のように描き続けています。

 ◆26年の春ごろには、生後9カ月ごろまでを描いた単行本の2巻が出ます。ただ怒り散らしていた赤ちゃんのころと比べると、喜怒哀楽がはっきりしてきて、こちらが何かをしたら、ニコッと笑ったりする掛け合いもできるようになってきた時期です。だんだんとかわいくなってきて、漫画の主人公が私から子どもへと移っていきます。

今年の正月のぱるたんは…

 ――ちなみに、今年の正月はご家族でどのように過ごしますか。

 ◆年末は実家に帰るので、ぱるたんは、おばあちゃんとおじさんと遊ぶ予定です。あと、ぱるたんがおせちというものを、そろそろ理解できそうな気がするので、おせちの具材を説明する絵本を読み聞かせて心の準備を整えています。

 ――最後に、赤ちゃん連れで帰省する人へ、メッセージをお願いします。

 ◆すごく準備してうまくいくときもあれば、うまくいかないときもあると思います。特に年末年始の帰省シーズンは人が多いので大変かもしれませんが、きっと周りには同士がいます。助けてくれる人もいます。そして、大変な目に遭っても、けがさえしなければ、武勇伝になるので大丈夫です。何かおもしろい話があったら、インスタグラムで教えてください。【聞き手・川上珠実】

松本ひで吉さんの「ぱるたん~ちいさい人とのくらしは毎日たのしい~」(講談社)
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 略歴 まつもと・ひできち

 2008年に月刊少年ライバル(講談社)で、「ほんとにあった!霊媒先生」の連載を始めてデビュー。11年に同作で第35回講談社漫画賞児童部門を受賞。テレビアニメ化もされたエッセー漫画「犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい」の累計販売部数は100万部を突破した。

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