近年、学童保育所の利用児童数は増加している。一方、ハード面の整備が追いつかず、人手不足も慢性化している。子育て支援が進む中、学童保育所の現状を取材した。
小学生が放課後を過ごす「放課後児童クラブ」(学童保育)で子どもたちの生活を支える専門職として、「放課後児童支援員」の資格が2015年に創設されて今年で10年。
共働きがスタンダードになる中、子どもたちの放課後の居場所は変わったのか――。
「子どもたちが夢中になって遊んで、『楽しかった!』『明日もまたやろう!』と言われると、やりがいを感じますよね」
札幌市白石区の学童保育所「つくしの子」で放課後児童支援員として働く神馬伸昭さん(42)は、おもちゃなどが整頓された保育室内を見渡しながら、そう話した。
つくしの子は国の「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)」の対象として市などから助成を受け、保護者会が運営する非営利の学童保育所だ。
現在は近隣の小学校3校から1~6年生約20人が通っており、正職員2人とパートやアルバイト職員が働く。
好きな仕事か、給料か
平日、学校を終えた子どもたちが姿を見せ始めるのは午後2時半ごろ。職員は事前に会議や事務作業、買い出し、おやつの準備などを済ます。子どもたちがそろった後は公園へ出かけるのが日課だ。
夕方、お迎えに来た保護者にその日の子どもの様子などを伝え、保護者の相談に乗ることもある。息をつく間もないスケジュールに、神馬さんは「休憩はなかなか取れない」と苦笑いする。
神馬さんはつくしの子で働き始めて今年で21年目を迎えた。
24年度からは、つくしの子のような民設の学童保育所が加盟する「札幌市学童保育連絡協議会」の会長も務める。夜間の会議に出席する機会も多く、責任も増した。
そんな神馬さんの年収は400万円に満たない。4年ほど前に時給制から月給制になり収入は安定したものの、「実家暮らしなので生活に困ることはないが、同年代の人たちと収入について話すと、ちょっと悲しく感じることもある」と打ち明ける。
「好きな仕事をするか、給料を取るか。私は好きな仕事をしたいと思った」
職員の待遇の低さは学童保育業界の長年の課題だ。
国は15年、子育てを社会で支えることを目的とした「子ども・子育て支援新制度」の開始に伴い、「放課後児童支援員」を創設した。
しかし、「みずほリサーチ&テクノロジーズ」の22年の調査では、全国の学童保育所の常勤職員の平均年収(月給制)は285万円にとどまる。
資格制度が始まっても待遇の改善が進まない背景にあるのは、独特の勤務形態だ。
「十分な額とはいえない」
厚生労働省の指針が求める放課後児童支援員の業務内容は、子どもの安全確保▽遊びを通しての自主性、社会性、創造性を培う▽基本的生活習慣の援助▽家庭との日常的な連絡、情報交換▽学校や保育所など他機関や地域との連携▽児童虐待の早期発見――など多岐にわたる。
施設管理や物品購入、金銭や帳簿の管理などを現場の職員が担うケースも多い一方、学童保育所の平日の繁忙時間帯は午後の3時間程度と短いため、大多数の職員は非正規雇用だ。
放課後児童クラブは国や自治体の補助金と、独自の補助がある一部自治体を除き保護者からの保育料で運営する。
学童保育所の全国組織「全国学童保育連絡協議会(全国連協)」によると、24年度に国が人件費として算出した補助金は年収約310万円の常勤職員2人と同約180万円の非常勤職員1人を想定しており、全国連協の担当者は「専門職として十分な額とはいえない」と話す。
全国連協は2月に発表した「学童保育の実施状況調査」で、現場の職員について「職責の重さに対して処遇が低いため離職者も多く、なり手不足も深刻」と指摘。職員の入れ替わりが激しいことから、「継続して子どもや保護者と関われないなどの課題を抱えている」と苦境を訴えた。
現場の職員に対し、いまだに「ただ子どもと遊んでいるだけ」と思われる風潮も残る。
全国連協の担当者は「職員は毎日、子どもと顔を合わせることで様子を把握し、子どもたちが安心して生活できる場を提供している。子どもの成長を支える専門職として見合った処遇が必要だ」と話した。【今井美津子】
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