
ワインボトルの栓として優れているのは、コルクとスクリューキャップのどちらだろうか。見た目の美しさではコルクだ。持続可能性の観点でも森の生態系の維持に寄与するコルクのほうが、アルミニウムを採掘し製造するスクリューキャップよりずっと魅力的だ。
しかし、ワインの品質にとってはどうだろうか。大半のワインの生産者は1種類の栓しか使わない。そのため、コルクとスクリューキャップのワインへの影響を検証するのは容易ではない。
だから2024年11月に英高級ワイン商のスティーブン・ブロウェット氏が、中身がまったく同じで栓だけ違うワインを比較試飲する会を、ワイン関係者を招いて開いた時は、招待を断った人は一人もいなかった。
比較したのはコルクとスクリューキャップ両方を使っているニュージーランド、オーストラリア、フランス・ブルゴーニュ、フランス・ボルドー、イタリア・トスカーナの生産者のワイン。白18種類、赤7種類を17人がブラインドで飲み比べた。
ニュージーランドの白は、スクリューキャップの優位が明白だった。「クメウ・リヴァー・エステート・シャルドネ2002」のコルク栓のものは、明らかに茶色くなっており、酸化臭がした。スクリューキャップはまだ新鮮な果実味が残っていた。私を含め全員が後者を好んだ。
クメウ・リヴァーは昔はコルクだけだったが、1999年に重度のトリクロロアニソール(TCA)汚染に見舞われ、スクリューキャップに切り替えた。
ニュージーランドの他の2種類のワインもスクリューキャップの圧勝だった。ただし、これは好みの問題であることを付け加えておく。

これに対し、ブルゴーニュの生産者ヴェルジェの2003年産から19年産までの15種類の白は、まったく様相が違った。14年産までの古いワインはコルクが優勢だったが、15年産以降はほぼ互角だった。理由は単純で、初期のスクリューキャップは酸素透過率が高すぎた。15年産から酸素透過率の低いものを使い始めた。
ヴェルジェが栓に加えたもう一つの大きな変更は、12年にコルクを天然コルクからディアム社製の圧搾コルクに切り替えたことだ。これで酸素透過率の調整がコルクでも可能になり、TCA汚染の心配も消えた。私はヴェルジェの15種類中6種類でスクリューキャップの方がおいしいと感じたが、品質に明確な差があったわけではない。特に圧搾コルクとスクリューキャップの違いによる差はほとんど感じなかった。
一方、赤ワインは、試飲した中では最も若いトスカーナの「チェッパレッロ2016」を除き、スクリューキャップの圧勝だった。チェッパレッロだけは僅差でコルクに軍配が上がった。他に比較した赤ワインは、ボルドーの格付け2級シャトー、ローザン・セグラのセカンドワインの09年産と10年産、南オーストラリアの「ヘンチキ・マウント・エーデルストーン2004 シラーズ」など、いずれも長期熟成に向いたワインだった。
赤ワインのコルクはすべて天然コルクだった。ディアムの圧搾コルクだったら結果は違っていたかもしれない。
これらの結果から何がわかるのか。第一に、白ワインに最も適した栓はどれかという問いに対しては、明確な答えはないということ。第二に、私たちが試飲した7組の赤ワインから判断する限り、赤ワインは通説に反して天然コルクよりもスクリューキャップのほうが優れている可能性があるということだ。
進化する栓、いまだ決着つかず
ワインを楽しむ上で、ワインボトルの栓は中身のワインやボトルの形・デザインなどに比べると脇役中の脇役に見える。だが実は、重要な役割を担っている。とりわけ中身のワインがボトルの中で期待通り熟成するかどうかは、栓にかかっていると言っても過言ではない。
ワインの熟成とは一般に、ボトルの中のワインがゆっくりと時間をかけて少しずつ酸素と触れ、酸化していく過程だ。そのための酸素はコルクを通じてボトルの中に入ってくると考えられてきた。だからこそコルクは長年、ワインの唯一の栓として不動の地位を維持してきた。
ところがワイン人気が世界的に高まった1980年代以降、コルクの供給が需要に追い付かなくなり、その結果、粗悪なコルクが蔓延(まんえん)。ブショネと呼ぶコルク由来の欠陥臭を帯びたワインが増えて世界的な問題となった。解決策として登場したのがアルミ製のスクリューキャップだ。特にオーストラリアとニュージーランドではスクリューキャップに切り替える動きが急速に進んだ。

一方、コルクも巻き返しをはかっている。天然コルクを一度粉砕し、ブショネの原因成分であるTCAを取り除いて製造する圧搾コルクは人気があり、日本でも多くの生産者がブショネ対策として採用している。
スクリューキャップには道具を使わず簡単に開けられるなどコルクにないメリットもあるが、「コルクでないとワインを飲んだ気がしない」というオールドファンも非常に多く、栓をめぐる戦いに決着は付いていない。
どちらが消費者受けするかは国によっても違い、同じワインをA国向けはコルクで、B国向けはスクリューキャップでと、使い分けている大手の生産者もいる。
ライター 猪瀬聖(翻訳とも、WSET Diploma)
[NIKKEI The STYLE 8月24日付]

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